【陸上】後方からの勝負ではなくスタート直後から先頭に――館澤亨次が見せた成長の証し
第104回日本選手権・2日目(10月2日)/男子1500mは、実業団1年目の館澤亨次(横浜DeNA)が3分41秒32で2年ぶり3回目の優勝。東海大時代の優勝とはまた一味違う勝利の味だった。
スタートから先頭譲らず
「記録は関係なく、勝負に徹する」と臨んだ決勝。本来なら周囲の出方を見ながら持ち味のラストスパートで勝負するところだが、この日の館澤は違った。 「これまでは他人のペースに合わせて勝負してきましたが、世界を見据えて戦うのであれば、自分でレースをつくった上で勝ち切ることが必要だとコーチに言われたので、失敗してもいいから挑戦してみよう」と、館澤はスタート直後からいきなり集団の先頭に立った。57秒で入るはずった1周目は59秒かかり「焦った」というが、「その後は落ち着いてレースを展開できました」と先頭を譲らず。館澤に必死に食い下がる的野遼大(三菱重工)ら後続の追い上げを背中に感じながらも、最後は持ち味のラストスパートで引き離す完勝だった。
自信を取り戻すまで
館澤は東海大時代にすでに2度、日本選手権1500mを制覇する一方、大学三大駅伝(出雲、全日本、箱根)でも活躍。今年1月の箱根駅伝6区区間賞の激走は、“1500mの選手が過酷な山下りであそこまで走るのか”と多くの人々を驚がくさせるものでもあった。 実業団1年目のシーズンを迎えたこの春からは、本格的に1500mで世界の舞台を目指すべく、横田真人コーチ(TWO LAPS/12年ロンドン五輪800m代表)に師事することを決意した。もっとも、当初は目標に向かう具体性に欠けており、そのうえ、身体面でのコンディションがまだ万全ではなかった。そのため、「7月までは自信のない中での取り組みになっていた」という。 しかし、7月下旬の東京都選手権後、横田コーチとの話し合いから、「何を目的にして、どこにポイントを置くかを意識するようになった」と気持ちを新たにした。6月まではリハビリメニューの多かったフィジカル面も、状態が回復して以降はTWOLAPS TCのマロン・アジィズ航太コーチの指導の下、「大学時代はほとんどやっていなかった」という本格的な補強トレーニングを開始。そのため、体重の変化こそそれほどないが、たくましさを増し、「中距離選手らしい身体つきになったと思う」。 そうした心身の変化が館澤に自信を取り戻させ、8月下旬のゴールデングランプリ、9月中旬の全日本実業団選手権で連勝。レースを重ねるごとに余裕が生まれ、今大会でも、威風堂々のレースで勝ち切ってみせた。 「学生時代の優勝は、ある意味勢い。でも今回の優勝は意味合いが違います。本当は今日も、スタート前は結構ピリピリしていたんですけど(笑)、周りから(堂々しているように見えたと)言わるのは、自信がついた証拠なのかもしれません」 そう照れ笑いを浮かべた館澤は、再び表情を引き締めると「今後も一つ一つやるべきことに取り組んで、世界を目指したい」と来シーズンへの決意を新たにした。
陸マガ編集部