「鍋の素は冬しか使えない」を覆す…エバラ食品工業「プチッと鍋」が"ポーション調味料"を名乗る理由
1人分の鍋料理「個食鍋」の市場が活発になっている。マーケティングが専門の高千穂大学商学部教授の永井竜之介さんは「2012年に味の素『鍋キューブ』、2013年にエバラ食品工業『プチッと鍋』という2つの新商品が登場したことで、1人から自由に鍋を楽しめる個食鍋の市場が開拓されていった」という――。 【写真】エバラ食品工業「プチッと鍋ホッと温 中華しょうゆ」 ■「鍋つゆ」市場が拡大している 毎年、寒さの訪れとともにニーズが高まっていく鍋料理の関連市場で、特に大きな成長を見せているのが「鍋つゆ」市場だ。鍋つゆ市場は、富士経済の調査によると、2010年には279億円だった市場規模が、2020年には448億円へ急拡大しているという。コロナ禍による特別な内食ニーズの高まりからの揺り戻しや暖冬の影響などを受け、2023年の市場規模は407億円となったが、2019~23年の年平均成長率は101.5%で堅調な成長を維持している(※1)。 ※1 激流ONLINE「秋冬商品戦略/Mizkan「鍋つゆ」/新価値創出で客層を拡大し鍋市場を活性化」、北海道新聞「<北の食☆トレンド>拡大する『鍋つゆ』市場 冬の陣、北海道進出『久原本家』×老舗『ベル食品』」を参照。 鍋つゆ市場の成長の背景として、「2つの開拓」が指摘できる。1つは、味の開拓が進められている点である。昔ながらのよせ鍋・ちゃんこ鍋・もつ鍋・すき焼きといった和風の味つけに加えて、韓国のキムチ鍋・チゲ鍋・参鶏湯、洋風のトマト鍋・ブイヤベース・チーズやクリーム系の味つけ、中華の火鍋、そしてカレーやごま豆乳など、新たな味が人気を呼び、それが新定番となって鍋つゆの種類を増やしていくことに成功している。 ■個食鍋市場で売上トップとなった「プチッと鍋」 もう1つの成長要因が、「個食鍋」という新市場の開拓だ。3~4人前で使い切りのパウチタイプの商品が主流になっている鍋つゆ市場において、2012年の味の素「鍋キューブ」、2013年のエバラ食品工業「プチッと鍋」という2つの新商品が登場したことで、1人から自由に鍋を楽しめる個食鍋の市場が開拓されていき、現在では鍋つゆ市場の約2割を個包装タイプの個食鍋商品が占めるまでに成長を遂げている。 この個食鍋市場で売上トップの座を掴んでいるのが、11種類もの味を展開するエバラ食品工業「プチッと鍋」シリーズだ(2023年4月~2024年3月累計販売金額)(※2)。ここでは「イノベーション鍋」を目指して開発された「プチッと鍋」の強みについて、先行していたライバル「鍋キューブ」との関係や、協調と競争を使い分けるマーケティング戦略を取り上げながら見ていこう。 ※2 エバラ食品ニュースリリース「エバラ食品『プチッと鍋』新CMを9月17日(火)より放送開始」を参照。 「プチッと鍋」は2つの大きな強みを持っている商品だ。まず1つめの強みは、個食鍋を求める消費者ニーズを的確に満たすことができる点にある。エバラ食品工業は、「キムチ鍋の素」などボトルに入った濃縮タイプでヒット商品を生み出していたが、濃縮タイプからパウチタイプに鍋つゆ市場の主流が移行するにつれて苦戦を経験し、パウチタイプで大きなシェアを掴めずにいた。そうした中で、これからのニーズを満たす「イノベーション鍋」を目指して開発されたのが「プチッと鍋」だった(※3)。 ※3 Cross Marketing「個食市場を切り拓いた『プチッと鍋』 第1回 『1個で1人前』のコンセプトにたどりつくまで」、日興フロッギー〈「『平日だって鍋を食べたい』、お客様の声が『個食鍋』という市場につながったんです」【前編】〉を参照。