「鍋の素は冬しか使えない」を覆す…エバラ食品工業「プチッと鍋」が"ポーション調味料"を名乗る理由
■味の素「鍋キューブ」との接戦を繰り広げる ポーション調味料としての活用提案は、自社サイトだけに留まらない。時期ごとに、様々なレシピサイトやインフルエンサーとのコラボレーションも積極展開している。直近では、2024年10月からプロの料理家の美味しいレシピが集まる料理メディア「Nadia」において「鍋だけじゃない!プチッと鍋でおかずもごはんも!大満足レシピ」が公開されている。自宅に限らず、屋外のアウトドアシーンでの「キャンプ飯」としての活用提案も発信されている。 そうしてオンライン上の情報を充実させながら、2024年9月から放映のテレビCMでは「プチッと炒め」の実演シーンを見せてネットやSNSでの検索を促す形を強調しており、テレビCMを見た人が「調べてみたらたくさんある!」と驚き、活用法に納得するよう誘導する情報網が構築されている。 「個食鍋としてのニーズ」や「ポーション調味料としてのニーズ」を自ら提案することで、商品の新ニーズ開拓に成功している「プチッと鍋」だが、先行して発売されていた味の素「鍋キューブ」との激しい競争は続いている。2023年9月1日~11月30日におけるスーパーマーケットでの売上個数ランキングでは、鍋つゆトップ10のうち個食鍋タイプが4つランクインし、5位と8位に「プチッと鍋」、6位と10位に「鍋キューブ」という接戦ぶりだ(※5)。 ※5 日経クロストレンド「『鍋つゆ』売り上げランキング1位は? リピート率首位は意外な○○」を参照。 ■マーケットインか、プロダクトアウトか この2つの商品は、「個食鍋」という同じニーズを満たすライバル同士だが、じつは対照的なスタート地点から開発された、という点がユニークだ。「プチッと鍋」が市場のニーズから新商品を作る「マーケットイン」と呼ばれる開発方法だったのに対して、「鍋キューブ」は自社の技術や強みを活かすことで新商品を作る「プロダクトアウト」と呼ばれる開発方法が取られている。 味の素では、自社のヒット商品であるキューブ状の「味の素KKコンソメ<固形タイプ>」に着目し、このキューブ状という独自性を活用した新商品を模索した結果、120にのぼる新商品アイデアの中から誕生したのが「鍋キューブ」だった(※6)。 ※6 女性自身「鍋つゆ界の革命商品『鍋キューブ』誕生のきっかけ」を参照。 「鍋キューブ」は、鍋つゆの素を小さなキューブ状の商品にする、というこだわりを実現するため、約2年をかけて美味しさ・コンパクトさ・溶けやすさを共存させる技術開発をクリアし、2012年8月に発売された。この「鍋キューブ」と「プチッと鍋」は開発期間がかぶっており、「鍋キューブ」の発売を受けて、「プチッと鍋」は予定していた開発期間を約1年短縮し、2013年8月に発売を早めたという(※7)。 ※7 日興フロッギー〈「『平日だって鍋を食べたい』、お客様の声が『個食鍋』という市場につながったんです」【前編】〉を参照。