「鍋の素は冬しか使えない」を覆す…エバラ食品工業「プチッと鍋」が"ポーション調味料"を名乗る理由
■ガムシロップなどで親しみのある容器を採用 鍋に新しい価値をもたらす「イノベーション鍋」となるには、どんな新しい価値を作ればいいのか。それを探るために実施したユーザー調査から出てきたのが、「個食」というキーワードと「1個で1人前」というコンセプトだった。ライフスタイルの多様化が進み、一世帯あたりの人数が減り、家族が同じ時間に揃って食事をする機会も減っている。その結果、1人暮らしや夫婦2人でも、あるいは家族世帯の中で「夜遅くに帰ってきた父の夜食用」「母の自宅ランチ用」など、「もっと自由で手軽に鍋を楽しみたい」というニーズが高まっていた。 「1個で1人前」の個食できる鍋つゆ開発にあたって、これまでにないインパクトを求めて選んだのが、ポーション型容器だった。ガムシロップなどの容器として親しみがあって使いやすく、鍋の素としては斬新さがあり、売り場や広告で大きな注目を集められると考えたためだ。 水分を飛ばして液を濃縮する方法では風味が損なわれてしまうため、自社独自の高濃度ブレンド技術を活用した。余計な水分を加えずに原料の量、配合、順番、加熱方法などを調整し、20mlの小さなポーション容器に充填するという高度で繊細な技術開発の末、「プチッと鍋」は商品化された。鍋つゆ市場では年間5億円で大ヒットと考えられているところ、「プチッと鍋」は初年度に9億円、2年目には18億円の規格外のヒットを記録し、その後も毎年売上を伸ばし続け、個食鍋市場を開拓していくことに成功した(※4)。 ※4 日興フロッギー〈「お客さまの反応を見て商品名は『プチッと鍋』しかないと思ったんです」【後編】〉を参照。 ■鍋以外にも使える「ポーション調味料」という位置づけ 「プチッと鍋」の2つめの強みは、「ポーション調味料」という新ジャンルの提案を推進する点にある。鍋料理にとって最大の課題は、寒い時期に需要が偏り、暖かい時期に売れなくなることだ。そのため、「鍋以外の料理にも使える」という提案の量と質によって、ユーザーを「たしかに便利」「なるほど」と思わせて説得することが重要になる。「プチッと鍋」は、ユーザーに年間を通じて利用してもらうために、「鍋の素」ではなく、鍋にも使える「ポーション調味料」として位置付けられている。 エバラ食品の「プチッと鍋」ホームページには、「プチッと鍋でアレンジレシピ」の専用ページが作られており、肉野菜炒めやチャーハンなどの「ササッと炒める」、ハンバーグやお好み焼きの「手軽に焼くだけ」、炊き込みご飯や茶わん蒸しの「ほったらかし」、というポーション調味料としての3つの活用法が特集されている。さらに、自社ホームページ「おいしいレシピ」では、「プチッと調味料」のレシピが747件と豊富に提供されている(2024年11月末時点)。これは、味の素「レシピ大百科」において「鍋キューブ」レシピが407件であるのと比べても、とりわけ多いことが分かる。