コロナで露呈した権力集中の弊害、中国の全体主義あらわに 神田外語大・興梠一郎教授 新型コロナ中国公表から5年
中国の武漢市当局が2019年12月に、後に新型コロナウイルス感染症とされる原因不明の肺炎を公表して31日で5年。神田外語大の興梠一郎教授はコロナ禍では「都合の悪いことを隠蔽する中国の全体主義的な体質」が改めて浮き彫りになったと指摘する。 ◇ 中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスの感染が報告されてから5年が過ぎたが、いまだに感染源がはっきりしない。原因は間違いなく中国の初動対応の悪さにある。警鐘を鳴らした男性医師の声を封殺し、世界保健機関(WHO)の調査を受け入れたのも感染拡大から約1年後だった。 未知のウイルスが発見された場合、いち早くWHOの専門家を入れて感染源を特定し、感染拡大を防ぐのが基本だ。時間がたってしまってはまともな調査もできない。ごく当たり前の対応ができていれば、世界中に感染が拡大することは防げたかもしれない。 米下院は今月、武漢の研究所での事故がウイルスの起源だとする最終報告書を公表したが、中国は「中国を陥れる政治的操作」だと反発した。中国はコロナ禍初期にも、中国での独立した調査を提唱した豪州に経済制裁を科していた。 「ぬれぎぬだ」「西側の陰謀だ」と他国を批判する前に感染源を特定しないといけないが、何年たっても結論が出ない。中国は感染が広がった国として、甚大な被害が出た国際社会に説明責任を果たしていない現状を直視すべきだ。 都合の悪いことを隠蔽する中国の全体主義的な体質が顕著になったという意味で、コロナは大きな転換期だった。厳しい都市封鎖も強行し、苦しむ人々の声を封殺した。国内外で中国への信頼感を失わせたコロナの〝後遺症〟が今、顕在化してきている。 サプライチェーン(供給網)リスクが高まったとして中国から撤退する外資も増えた。コロナ禍で国にリスクを感じた中国の富裕層や中間層が海外に逃れる動きも目立つ。ゼロコロナ政策に抗議した白紙運動のような動きが、またいつ起きてもおかしくない。 中国の秘密主義や言論封殺の根源にあるのが体制の問題だ。官僚や専門家は首が飛ぶことを恐れ、共産党や政府の方針に異を唱える発言ができなくなった。習近平国家主席に権力が集中し、統制がさらに強化された結果、危険分子を力で抑えることが癖になり、経済政策さえもブレが大きくなった。コロナはその始まりだった。(聞き手 桑村朋)