「船乗り=会えない」は過去の話? 独海軍激レア艦のケータイ事情とは 7か月“缶詰め”の乗組員
船によって異なる勤務環境
ドイツ海軍のフリゲート「バーデン=ヴュルテンベルク」と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」が2024年8月20日、東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)に艦隊を組んで寄港しました。ドイツ海軍が「今年最も重要な海洋防衛外交の取り組み」と目しているインド太平洋方面派遣「IPD24」の一環で来航した艦隊です。 【旅立ちの朝】船上でしばしの別れを惜しみながら写真を撮る軍人と家族(写真) フランクフルト・アム・マインの場合、2024年5月7日にドイツ北部の軍港ヴィルヘルムスハーフェンを出てから7か月にわたる長期のプロジェクトです。 その間、船員たちの航行スケジュールはどのようになっているのでしょうか。また、航行中、家族と連絡は取れるのでしょうか。同艦の准士官・マティアスさんに聞きました。 貨物船の船長を務める父親と話ができないため、自宅から船に向けてモールス信号で連絡する――スタジオジブリ映画『崖の上のポニョ』でのひとコマです。 「船乗り」と言えば「家に帰れない」というのが一般的なイメージです。民間の貨物船の船乗りでさえも、このようなイメージが定着しているのですから、国家機密に携わる仕事であるドイツ海軍の乗組員たちなら、ますます家にも帰れないし、連絡も取れないと思われがちですが、実情は少し異なっていました。 例えば、バーデン=ヴュルテンベルクの乗組員は約180人(うち女性は約1割)ですが、航行中に乗組員のチームを随時入れ替えるクルー制を導入しています。そのため、7か月間、ずっと家に帰れないという勤務環境ではありません。
家族との連絡方法
一方、ドイツ海軍で最大級の軍艦フランクフルト・アム・マインでは、7か月の任務期間、約200人の乗組員(うち女性15%)が基本的に入れ替えなしで航行を続けています。つまり、7か月間、家族や恋人らと会えないわけです。 「船乗り=会えない」という昔ながらイメージを彷彿とさせる勤務体系のフランクフルト・アム・マイン。ドイツのヴィルヘルムスハーフェンを出港する際には、7か月間離ればなれになる家族とのお別れ会が催されました。 会では家族を甲板に上げて一緒に写真を撮ることが許されているのです。呼べる家族や友人の数に制限はないといいます。この日ばかりは、軍服姿の写真を誇らしげに撮る親や祖父母などで甲板上はごった返します。 しかし、昔の船乗りと違うのは、今は、乗組員たちの携帯電話の利用が認められていることです。携帯電話の位置情報などの情報漏洩の観点から、携帯電話の利用には厳しい制限が設けられているのかと思いきや、意外にも、勤務中でなければ自由に使って良いようです。 Wi-Fiもきちんと整備されているといいます。現に、任務で航行を続けているマティアスさんとの取材で毎日のようにやりとりをしましたが、重たい写真のデータなどの送付も問題がないようでしたし、メールも早い時では数分で返事が来るほど、普通のオフィスのWi-Fi環境と変わらない印象を受けました。 乗組員たちは、整備されたネット環境を利用し、家族とビデオ通話をしたり、連絡を取り合ったりすることが許されているそうです。これは、長い航行生活において、かなりの精神的な支えになっているのではないでしょうか。技術の発展とともに、船乗りの勤務環境も改善されていっていることがうかがえました。
赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)