進化する大学のデジタル図書館 スマホで貸し出し、レポートを学生が電子書籍化
「本を読むならやっぱり紙」の世代とは異なり、画面上での読書に慣れたデジタルネイティブ世代が増えています。そうした時代の流れは、大学の図書館にも反映されつつあり、新設したキャンパスに「デジタル図書室」を設けた大学もあります。(写真=関東学院大学提供) 【写真】関東学院大学のデジタル図書室。紙の本を閲覧し、借りることもできる
進む図書館のデジタル化
図書館の身近なデジタル化の例には、自動貸し出し機があります。機械に本をかざしたり置いたりするだけで、利用者自身で簡単に貸し出し手続きができます。多くの街の図書館で見かけるようになりましたが、大学図書館でも設置するところが増えてきています。 立命館大学衣笠キャンパス(京都市北区)の平井嘉一郎記念図書館には、ウォークスルー型の本の貸し出し機が設置されています。退館ゲートに自動貸し出し機能が搭載されており、学生証をかざして通り抜けるだけで本の貸し出し手続きが完了します。すべての開架本にICタグが付いており、本をかばんに入れた状態でも機械がタグを読み取って処理を行います。 国内の大学図書館で初めて、スマートフォンアプリを活用した貸し出しサービスを始めたのが、神奈川大学です。2021年4月に開設した、みなとみらいキャンパス(横浜市)は、21階建ての校舎の2階と3階に図書館がありますが、他フロアにも書架が設置されており、本に貼られたバーコードを専用アプリで読み取れば、そのまま借りることができる仕組みになっています。 学生が学んでまとめたレポートや論文を電子化し、自分自身で電子図書館に登録する試みも行われています。追手門学院大学(大阪府茨木市)では、ゼミで作成したレポートなどをRomancer(ロマンサー)というウェブサービスを利用して、学生自らが電子書籍化して登録し、閲覧できるようにしています。学習の成果を電子書籍として残すことで、主体的な学びを進めています。
都市型高層キャンパスのデジタル図書室
23年4月に開設した横浜・関内キャンパス(横浜市)に、「デジタル図書室」を設けたのは、関東学院大学です。地下2階、地上17階建ての校舎棟の5階にオープンしました。 図書館運営課の立石文恵・課長補佐は、こう話します。 「JR関内駅の前に建つ17階建てのビルの中にあるキャンパスなので、図書館として独立した建物ではなく、5階の1フロアという限られたスペースになります。その空間をうまく利用するためにも、これまで推進してきたデジタル化をさらに拡大することにしました」 デジタル図書室の設置に際して大切にしたのは、①電子リソース中心であること、②紙の本もハイブリッドに利用できること、③本や情報と利用者をつなぐ場であること、④ICTを活用すること、⑤居心地のよい空間をつくること、という5つのコンセプトでした。 「スマホアプリからもアクセスできるOPAC(蔵書検索システム)では、紙の本も電子書籍も検索でき、電子書籍はURLをクリックするだけで閲覧できます。閲覧は大学のネットワーク上でのみ可能で、学内Wi-Fiにつながっていればどこにいても見られます。学外でもVPN接続(ネット上の仮想の専用回路を使って情報をやり取りする仕組み)を利用すれば、いつでも、どこでも大学所蔵の電子書籍 にアクセスできます」(立石さん) システム上、閲覧できるのは一冊の本につき基本的に1人までで、だれかが閲覧している場合には、閲覧が終わるまで待つ必要があります。ただし、閲覧型サービスの電子書籍は貸し出しと返却の手続きが不要のため、閲覧が終了すれば、すぐに次の人が読むことができます。 さらに学生にとってうれしいのは、「LibrariE(ライブラリエ)」という電子図書館サービスです。所蔵する電子書籍とは別に大学がサブスクリプション(一定期間利用できる権利)契約しているもので、流行本や旅行のガイドブックなど、気軽に楽しめるコンテンツが充実しています。英語の多読本も豊富にラインアップされており、勉強しやすいと好評です。一定期間でコンテンツが更新されるので、常に新しい情報に触れることができます。こちらの電子書籍には定められた貸出期間があり、それを過ぎると自動で返却される仕組みです。 デジタル化を進めた横浜・関内キャンパスの紙の蔵書数は限られていますが、同じ横浜市内にある金沢八景キャンパスとの間を一日に1~2便の車が往復し、学生が希望した本を翌日には手元に届けられる態勢を整えています。金沢文庫キャンパスにある書庫からも取り寄せ可能です。「キャンパス間で不公平が生じないようにすることは、最も配慮した点です」(立石さん)