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大村智/ノーベル賞の薬が救世主になる日〈抗寄生虫薬が秘める可能性を語った〉――文藝春秋特選記事【全文公開】

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文春オンライン

 それにしても、大変な世の中になりました。  コロナのおかげで私も在宅勤務、ちょっとかっこいい言い方をすると“在宅研究”の日々を送っています。最初の頃、部屋にこもって本ばかり読んでいたら、体調が途端におかしくなってきました。これはいい経験をしたと思います。私も84歳になりますから、注意しなければいけないと思い知りました。 「STAY HOME」、「おうちで過ごそう」なんて言いますが、家に閉じこもって“静か”にしているだけではやっぱりダメですね。わが家は世田谷の多摩川の近くだから朝早く起きた時には散歩に出るし、そうでないときは家の階段を20回も30回も昇り降りしています。  今は人になかなか会えません。でも人と喋らないと、脳が退化してしまう。特に、私は妻を亡くしていますから危険です。幸い、ゴルフ仲間などの友達がたくさんいるので、朝から「どうしてる?」なんて適当な用事で電話をかけまくっています。ある程度の時間しゃべったら、途中で「おい、今日はもう十分は喋ったから切るぞ」と言って切り上げてしまうんですけど(笑)。  そんな生活を送っていたなかで飛び込んできたのが、イベルメクチンのニュースでした。40年前に開発した抗寄生虫薬「イベルメクチン」が、新型コロナウイルス感染症に効果を発揮するかもしれない――4月になってそんな一報が入ってきたのです。実は、そのことを最初に伝えてくれたのは私の娘でした。娘はサイエンスについては全くの素人ですが、なぜかインターネットで見つけて「お父さん、こんなのが出てるよ」と夜中に持ってきたんです。  本音を言うと、このニュースにはあまり驚きませんでした。イベルメクチンは寄生虫駆除の薬ですが、2012年以降は、HIVやデング熱など、一般にフラビウイルスと呼ばれている一群のウイルスに対してもインビトロ(試験管内試験)で効果があることがわかってきていたからです。新型コロナウイルスも、フラビウイルスの一種です。  だから1月末頃から北里研究所で分野横断的なチームを組んで準備していました。イベルメクチンを始め我々がこれまでに発見した化合物、およびそれらの誘導体を何百と作り、新型コロナウイルスに効くものがないか片っ端から調べる計画でした。ところが、分離したウイルスが手に入らなかったため、研究がなかなか進んでいませんでした。  そうこうしているうちに、オーストラリアでの研究発表を皮切りに、アメリカ、イギリス、フランス、スペイン、タイ、プエルトリコ、ボリビア、ペルー……世界各国の大学や病院で臨床治験が始まったと報道されるようになってきました。感染症研究のメッカである米ジョンズ・ホプキンス大学も臨床研究を開始すると発表し、期待が高まっています。

本文:6,982文字

写真:3
  • 大村智氏(北里大学特別栄誉教授) (c)文藝春秋
  • 日本では「ストロメクトール」として製造・販売
  • 2015年にノーベル生理学医学賞を受賞 (c)共同通信社

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大村 智/文藝春秋 2020年7月号

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