俳優・高橋文哉の「察する力」その原点は、男三兄弟の上下関係?「兄に怒られないよう…」
「まずは相手のことを知り、相手のことを考えます」
友達や先輩に誘われれば極力出向こうとする付き合い上手でもある。誰とでも仲良くできるコツを尋ねると、「それは僕も知りたいです。誰とでも仲良くはなれないですよ」とボソリ。ただ、相手のことはものすごく考えると続けた。 「例えば初めて共演する相手だったら、いまはネットでいくらでも情報を集められますから、その方の過去のインタビューを読んだり、好きなものを調べたり、昔はよくしていました」 それも仕事の一環と捉えていた。役柄にもよるが、相手の人となりを知っているほうがコミュニケーションも円滑になり、良い作品をつくる助けになると信じている。 話を聞いていると、高橋さんは常に相手が求めることを察して、それに応えることに尽力しているよう。その気質はもしかして、三人兄弟の末っ子だったことが関係しているのだろうか。 「そうかもしれません。兄は僕とだいぶ歳が離れているので、(兄たちに)怒られないように、というのを小学生くらいから考えていた気がします。男三兄弟なので、家の中でもボールが飛んできたり、プラスチックの硬いおもちゃが飛んできたりして、物騒だったんですよ(笑)」 兄と同じバレーボールチームに入り、休みの日も扱かれ、傷だらけになりながら練習に励む日々。上下関係の厳しさは、幼少期に教え込まれた。 「(兄たちのことは)すごく怖かったですが、ずっと尊敬していました。長男も次男もやりたい仕事を見つけて飛び込んだので、僕も好きなことを見つけて、早く大人になりたいと思っていましたね。いまでは兄が僕の家に来てゲームを一緒にするぐらい仲良し。友達みたいな関係になっています」
自分の頑張りで誰かが喜んでくれる
高橋さんは大好きな料理を極めようと調理師免許を取り、料理人の道を目指そうとした矢先、縁あって俳優の世界に。料理と演技、まったく別の仕事だがどちらも根底にあったのは、「人に喜んでほしい」という思いだった。 「作品を作り上げる製作の方々や、応援してくださるファンの方々、事務所の方々。僕の頑張りによって、誰かが喜んでくれたり、幸せになってくれたりする仕事。最終的には自分のためではありますが、いろんな人の思いのためなら頑張れる。家族や地元の友達に『すごいね』と言ってもらえるような仕事をしたいという気持ちもあります(笑)」 俳優は天職だと思っている。これからどんな俳優になりたいかという問いには、しばらく考えてこう答えた。 「困った時、『とりあえず声をかけてみよう』と思っていただけるような役者になりたいです。『高橋文哉に頼めばなんとかしてくれるだろう』と信頼されるような」 自分よりも他者。誰かのためなら、惜しみなくすべてを与えられる。最強の武器を持つ青年俳優は、まだ底知れぬ可能性に満ちている。 高橋文哉(たかはし・ふみや) 2001年3月12日、埼玉県生まれ。2019年『仮面ライダーゼロワン』で主演に抜擢、以降ドラマ『最愛』、『君の花になる』、『フェルマーの料理』に出演。映画『交換ウソ日記』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画『ブルーピリオド』が8月9日公開。 衣装クレジット ニット 640,000円、パンツ 220,000円、リング 76,000円/すべてディオール(クリスチャン ディオール) K-POP界のレジェンド、ドンヘさん、ウニョクさんをお迎えしたスペシャルインタビュ―、JOさんと愛猫ミントの貴重な2ショット、SNSで話題沸騰中のマンガ『猫に転生したおじさん』作者・やじまさんによる特別描きおろしマンガ&シール付録など、「猫のいる毎日は。」特集は「CREA」2024年夏号でお読みいただけます。
黒瀬朋子