首相所信表明は「石破カラー」より「国民民主の要求」 にじむ政権の苦境
石破茂首相にとり2度目となった29日の所信表明演説は、国民民主党が求める「年収103万円の壁」の引き上げを盛り込むなど、少数与党政権の苦境を反映したものとなった。12月2日の衆院の代表質問から本格化する国会論戦で、野党から高い要求を突きつけられるのは必至だ。首相自身も政権の現状について「このままで来夏の参院選を戦うわけにはいかない」と周囲に語るなど危機感は強いものの、反転攻勢のきっかけは見いだせていない。 ■目立った国民民主への配慮 「相互に協力を惜しまず、世界の進運に伍していかなければならない」。首相が演説冒頭に引用したのは、昭和32年の石橋湛山内閣の施政方針演説だった。首相は石橋氏の政党間対話を重視する姿勢を理想としてきた。他党との対話がカギとなる現状を踏まえ、自身を重ねたとみられる。 演説では、野党とも丁寧に合意形成を図っていく意向を示した。こうした野党への配慮の背景には、今年度補正予算案の成立に向け、国民民主との協力関係を固めたいとの思いがある。ただ、その結果、目立ったのは「石破カラー」より「国民民主の要求」だった。 その象徴が「年収103万の壁」の引き上げや「トリガー条項」凍結解除を含むガソリン減税だ。いずれも先の衆院選で躍進した国民民主が主張してきた政策で、首相は演説で「壁」を引き上げると明言。ガソリン減税は岸田文雄前政権時代の2月に与党と国民民主の協議が整わなかったが、今回は「解決策について結論を得る」と言及せざるを得なかった。 ■「短命内閣の発言引用とは…」 今国会では自民党派閥パーティー収入不記載事件に端を発した政治改革を巡っても、野党と激しい論戦になる見通しだ。自民は使途公開義務のない政策活動費の廃止や旧文通費改革などを提示しており、演説でも年内の法整備の必要性に言及した。ただ、立憲民主党は企業・団体献金の禁止を主張している。自民内は全面禁止に反対が根強いものの、首相は周囲に「ゼロ回答というわけにはいかない」と語る。 「地方的利害や国民の一部の思惑に偏することなく、国民全体の福祉のみ念じて国政を定め、論議を尽くしていくよう努めたい」。首相は演説の結びでも石橋内閣の演説に触れた。この演説が行われたのは2月4日。首相の誕生日でもある。だが当時、石橋氏はすでに体調を崩しており、外相だった岸信介元首相が代読した。岸氏は首相とそりが合わなかった安倍晋三元首相の祖父で、石橋内閣はその後、在任65日間の短命に終わった。日本維新の会の馬場伸幸代表は「わざわざ短命内閣の発言を引用するのは、何か宿命的なものを感じているのかもしれない」とあてこすった。(末崎慎太郎)