林芳正/「同志を募り、手を挙げる」〈「ポスト岸田」“本命”が明かす政権構想〉――文藝春秋特選記事【全文公開】
「文藝春秋」2月号の特選記事を公開します。/林芳正(外務大臣) ◆ ◆ ◆ ――2021年12月12日(日本時間)、外務大臣に就任されて初めてのG7の外相会議でジョン・レノンの「イマジン」をピアノで演奏され、個性的な国際会議デビューを果たされました。 林 そうですね(笑)。すこし前に、米国のブリンケン国務長官と電話会談をしていたのですが、彼もバンドでギターを弾いていることを聞いて、G7が開かれるリバプールでは音楽の話もしたいね、と話していたところでした。 そのリバプールでの夕食会がたまたま「ビートルズ・ストーリー博物館」で開かれた。私は中学生の頃、レコードが擦り切れるほど、ビートルズを聴いていた口ですから、感激しました。ジョン・レノンのための展示室には、あの丸眼鏡が保管されていたり、ジョン・レノンが「イマジン」を弾いた白いピアノのレプリカが置いてあったりして……。 その部屋で記念撮影することになり、ブリンケン長官や英国のトラス外相から、「ヨギー(林氏の愛称)、君がそこに座ったらいいじゃないか」とピアノの椅子を勧められ、博物館の方からも「弾いてもいいよ」と言われたのです。 ――「イマジン」は、国境のない世界を想像して平和を祈る歌ですが、奇しくもウクライナとロシアが国境をめぐって一触即発というタイミングでした。 林 ビートルズ解散後、ジョン・レノンは平和を願うメッセージソングづくりに熱量を注ぎますよね。あの時代もまさに今と同じように数多くの紛争があって、ジョン・レノンはそれに対する平和の呼びかけをしていた。私も大好きな楽曲です。 ただ、私が「イマジン」を弾いたのは、ジョンが「イマジン」を弾いたピアノのレプリカだったから。もしポール・マッカートニーが「レット・イット・ビー」を弾いたピアノだったら、「レット・イット・ビー」になっていたでしょう(笑)。 「お経答弁」の理由 ――123人の記者による本誌アンケート投票で、林大臣は31票を獲得し、「次の総理候補」のトップという結果でした。しかも2位とは13票差をつけての圧勝です。本誌昨年11月号のインタビュー記事のタイトルは「次の総理はこの私」で、まさにその通りの結果となりました。 記者からは「六度目の閣僚就任でオールラウンドプレイヤーの政策通」といった意見や、「判断や発信力に安定感がある」との評価が多く寄せられました。この結果をどのように受け止めますか。 林 正直いって驚きました。私は、記者の皆さんとお話ししても、記事になるようなことをほとんど口にしないので、彼らにとっては「難物」扱いで、評価が低いだろうなと思っていました。政治家を間近に見ている記者からそうした評価を受けて、大変光栄ですし、嬉しいです。 ――昨年10月に衆議院への鞍替えを成し遂げたことも評価されました。山口3区をめぐる河村建夫氏との公認争いに勝ち、「足りないと見られた決断力、胆力を示した」と。 林 これまで「政局は不得手」と何度も指摘されてきましたし、自分でも「夏休みの宿題になっている苦手分野を克服しなくては」と冗談交じりに言ってきました。 今回の鞍替えを振り返れば、地元の支援者が熱い気持ちで支え続けてくださったおかげです。それに尽きますね。 ――記者アンケートでは厳しいコメントも寄せられています。 「自信過剰なところが鼻につく」「大衆を惹きつける情熱や魅力に乏しい」「官僚答弁の読み上げが目立つ」などです。こうしたマイナス評価についてどう捉えていますか。 林 もちろんご批判については甘んじて受けるつもりですし、反省すべき点は今後の課題としたい。ただ答弁について申し上げると、大臣など政府の役職に就いている時は、お話しできないことが多々ある。我々は「お経」と呼んでいるのですが、全く同じ答弁を繰り返さなければいけない局面もあるのです。 小渕恵三内閣で大蔵政務次官だった頃、為替相場が急激に変動し、「為替介入はしないのか」と、よく質問されました。そのたびに、「為替は経済のファンダメンタルズを反映しており、安定的に推移することが望ましい」という答弁をずっと繰り返しました。 野党やマスコミから「質問に答えていない」と批判されましたが、言い方を少しでも変えると別の意味合いが生じる恐れがあった。だから約20年経った今でも、正確に諳んじられるほど繰り返したのです。 第二次安倍政権で、TPP交渉の担当でもあった農水大臣時代も、似たような状況がありました。答弁を少しでも変えれば交渉の進捗について憶測を呼びかねず、やはり「お経」になりました。
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林 芳正/文藝春秋 2022年2月号