東京五輪代表監督に「可変システム」を操る森保一氏が選ばれた理由とは?
チームマネジメントでも妥協を許さない。2014年に国内三冠を独占するなど、実績面では双璧をなすガンバ大阪の長谷川健太監督は、2015年のJリーグチャンピオンシップ決勝で広島に敗れた直後に、森保監督のさい配に思わず脱帽している。 「(佐藤)寿人をあの時間帯にまるで判で押したように、1年間を通して愚直に代え続けることは、私にはなかなかできない。戦い方を変えないメンタルの強さと、それを貫くことでチーム力を上げていく作業ができる意味でもすごいと」 この年の森保監督は不動のエース、佐藤寿人(現名古屋グランパス)を、後半15分前後で必ずと言っていいほど浅野拓磨(現シュツットガルト)と交代させた。相手が疲れる時間帯になれば、浅野の絶対的なスピードが生きるという信念は絶対に譲らなかった。 もっとも、輝かしい実績がそのまま五輪代表に反映されるかと言えば、現時点では未知数と言わざるを得ない。サンフレッチェに黄金時代をもたらした「可変システム」は、2011年まで指揮を執ったミハイロ・ペトロヴィッチ監督(前浦和レッズ監督)の下で編み出されたからだ。 基本布陣の「3‐4‐2‐1」が攻撃時に「4‐1‐5」へ、守備時には「5‐4‐1」へと変わる戦法は、戦術理解だけでなく選手同士の高度な相互理解、そしてあうんのコンビネーションの構築が必要不可欠となる。 必然的に広島でも、ペトロヴィッチ監督が移った浦和でも、年間を通してほぼ同じ先発メンバーとなった。毎日顔を会わせて練習できるクラブ向きの戦術であり、年間活動日数が著しく制限され、招集のたびに選手も入れ替わる代表への導入は困難を極めると言っていい。 ペトロヴィッチ監督時代に産声をあげたひな型を継続させるのがベストと判断し、そこへ守備面の強化を上乗せさせて「可変システム」を熟成させた森保氏の手腕は評価できる。 ただ、ゼロベースから戦術を組み立てたことがないだけに、五輪代表においては現時点で判断材料がゼロに等しい。今シーズンの広島では4バックなど従来と異なるシステムでの戦いにも挑戦したが、チーム状態が上を向かないまま7月4日に電撃辞任した。 西野委員長によれば、サッカーに対する見識を広げるため、いま現在は自費でヨーロッパに滞在して視察を重ねている森保氏は、離日前に行った交渉の席でこう語ったという。 「日本人の技術的に優れた点や規律正しさ、俊敏性や持久力といったフィジカル面での長所を、上手く使ったサッカーをやっていきたいと。日本人らしさというかアイデンティティーというものを、彼は強く口にしていた。いまもいろいろなイメージを膨らませていると思います」 東京五輪の出場資格を有するのは、1997年1月1日以降に生まれたすべての世代。現在インドで開催中のFIFA・U‐17ワールドカップに参戦中の16歳、FW久保建英(FC東京U‐18)も、もちろん選考の対象となる。 注目の初陣は、12月9日からタイで開催される23歳以下の代表チームによる国際試合。ここで、メンバーを見極めたうえで、来年1月に中国で開催されるU‐23アジア選手権に挑むスケジュールだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)