脳科学者が実践している「どうしてもやる気が起きない状態」の切り替え方
一夜漬けは効率の悪い勉強法
私は、大事なテストの前日はあまり遅くまで勉強せず、しっかり睡眠をとるようにしていました。今でも、大事な試験などがある前日には、可能な限り休息をとるようにしています。 私とは逆に、試験の前日に徹夜などをして、集中的に勉強する人もたくさんいます。話を聞いていると、どうもこちらのやり方をする人のほうが、私のように寝るタイプよりも圧倒的に多いのかもしれません。 「一夜漬け」といわれますが、その名の通り、このやり方ではそんなにしっかりとは「漬からない」ものなのです。せっかく徹夜までして頑張るのに、これは脳の仕組みから見るととても残念な勉強法です。 試験でいい点数を取りたいと考えている人にとっては、「眠るのがもったいない」ということになるのかもしれません。でも、こうした覚え方をした記憶がちゃんと試験の場で活かせるかというと、実は非常に効率が悪いのです。「一夜漬け」の経験者はきっと実感しているでしょうけれど、意外と肝心のところで思い出せなかったりするものだろうと思います。
覚えたらすぐ寝たほうが記憶の定着が高まる
アメリカの心理学者の実験で、学習後にすぐ眠った場合と起きていた場合とで、忘却率の比較をしたものがあります(図4)。上の線が、睡眠をとった場合の記憶の保持率、下の線が、睡眠をとらなかった場合の記憶の保持率です。眠ると眠らないとでは、こんなに大きな違いが出てしまうのです。 学習直後に睡眠をとった場合、最初の2時間でほぼ半分忘れますが、それ以降はさらに忘れることはほとんどありません。一方で睡眠をとらずに起きていた場合は、最初の2時間で記憶量は3割程度まで減少し、8時間経つと1割程度まで落ち込んでしまいます。 つまり、覚えた直後に眠ったほうが記憶の保持には良いということが明らかになったわけです。「テスト前にはちゃんと寝よう」という私の習慣が、これで科学的に裏づけされた形といえるでしょうか? 睡眠中に忘れにくいというのは、他の情報が脳にあまり入ってこないので、記憶の妨害がされないためであるといわれています。また、学習をあまり長時間続けると、心身共に疲れてしまい、能率が上がらなくなります。さらに、一気にまとめて反復するより、ある程度の時間をかけて、分散させて反復学習をしたほうが、記憶がより定着しやすいというデータも出ています(図5)。 したがって、学習後にすぐ睡眠をとるということは、心身を休めるだけでなく、記憶を固定させるという意味でも大切なことなのです。徹夜して勉強するより、規則正しい生活を心がけ、しっかり睡眠をとって本番に臨むようにしたいですね。
中野信子(脳科学者)