日本人の心は「儒教の教え」が宿っている…仏教に先駆け伝来した「儒教」を、貴重な日本美術から読み解く
(ライター、構成作家:川岸 徹) 紀元前6世紀の中国・春秋時代に、孔子と弟子たちが唱えた思想「儒教」。日本には古代に伝来し、主に宮廷や寺院で享受されていたが、江戸時代以降になると社会に広く普及した。儒教に根ざした日本美術に注目する展覧会「儒教のかたち こころの鑑―日本美術に見る儒教―」がサントリー美術館にて開幕した。 【写真】必見は重要文化財 伝 狩野永徳『二十四孝図襖』天正14年(1586)京都・南禅寺 ■ 儒教とは何か? 日本人の道徳観を形成している思想は何か? 答えは人それぞれあるだろうが、日本人の生活や意識には「儒教の教え」が深く根付いていると感じる。 儒教の教えの中でよく知られているものに「八徳」がある。「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の8つの徳。孔子とその弟子が説いた「五常の徳(仁、義、礼、智、信)」に、後に三つの徳(忠、孝、悌)が加えられたものだ。歴史文学を読む人なら曲亭馬琴『南総里見八犬伝』、あるいは山田風太郎の作品でおなじみでは。 この八徳は、日本人の道徳観そのもの。「仁」=人を愛し、思いやる。「義」=利や欲にとらわれず、人のために行動する。「礼」=相手に敬意を払って接する。「智」=よく学び、善悪について正しく判断する。「忠」=忠実に真心をもって仕える。「信」=常に約束を守り、人を欺かない。「孝」=親や先祖を大切にする。「悌」=目上や年長の人を敬う。 聖徳太子が制定した十七条憲法の第一条に出てくる「和をもって貴しとなす」という一説も、孔子の弟子たちが孔子との対話を編纂した『論語』に由来するとの説が強い。『論語』には「礼は之(これ)和を用って貴しと為す」という、よく似たくだりが記載されている。 儒教は古くから日本人にとってなじみ深いもの。『古事記』によれば、4世紀初頭に儒教経典の1つである『論語』が日本に伝わったという。513年に百済から訪れた五経博士が日本に儒教を伝えたとする説もある。いずれにしても、538年に伝わったとされる仏教よりも早い。 さて、この儒教だが日本では“立ち位置”が曖昧だ。「儒教は宗教なのか、宗教ではないのか」との議論が多々。儒教には一般的な宗教のように絶対的な始祖や教祖がいるわけではなく、信仰が最も重要だと説いているわけでもない。記者は「儒教の“教”は宗教の“教”ではなく、“教養”の“教”。人々が社会の中でどのように道徳的であるべきかを示す行動倫理を説いたもの」と捉えている。ただし、そんな考え方が許されるのも、ひとつの宗教への信仰が絶対的ではなく、様々な宗教の習合(いいとこどり)が行われてきた日本的といえるのかもしれない。