「大化の改新」の主導者は、中大兄ではなかった!? 不十分に終わった改革の真相とは―仁藤 敦史『東アジアからみた「大化改新」』森 公章による書評
◆「分裂外交」という新しい視座 「大化改新」とは645年6月に蘇我本宗家を討滅した乙巳(いっし)の変とそれに続く孝徳朝の改革を示すものである。『日本書紀』には蘇我本宗家の横暴に対して中大兄(なかのおおえの)皇子・中臣鎌足(なかとみのかまたり)らが蜂起したと描かれている。しかし当該期の朝鮮半島は高句麗(こうくり)、新羅(しらぎ)、百済(くだら)の三国抗争の最終局面で、唐が軍事介入をはじめる大動乱の時代だった。645年4月には唐と高句麗の戦端が開かれており、乙巳の変に関しては、現在、東アジア情勢にいかに対応するかという国際的要因が重視されている。 本書は古代宮都、女帝、律令体制成立以前の支配機構、また奈良時代の政治史など、多面的な古代史研究を推進する著者が、韓国の国際学会での報告などもふまえて、当該期の情勢を7世紀前半の推古朝頃から叙述したものである。蘇我氏=親百済、改新政権=親新羅・唐の対立を想定するか、推古朝以来の等距離外交が継続していたと見るかという論点があり、著者は後者に理解を示しつつも、「分裂外交」という新しい視座を呈している。孝徳朝の改革は中大兄が主導したと考えられてきたが、近年では改革の主体は孝徳天皇で、中大兄とは路線対立があったと見るのが有力になっており、それが改革が不十分に終わった要因で、対外政策の分裂も起きたという。そこには改新肯定論とは異なる「大化改新」像も示唆されている。 こうした分析は663年白村江(はくそんこう)戦の敗北と東アジアの地図刷新までを視野に通史的に述べるのが通例であるが、本書では倭国(わこく)と称した列島国家だけでなく、百済・高句麗と新羅の国内情勢、また唐の動向や関与の理由などを丁寧に検討しながら、当該期に絞った考究になっている。一つ一つの事象に対する著者の分析姿勢や観点がわかり、大変興味深く、勉強になる。こうなると、その後の対外関係の展開や国内改革の具体相に関する著者の見解を知りたいところであり、是非続編を期待したい。 [書き手] 森 公章(もり きみゆき・東洋大学教授) [書籍情報]『東アジアからみた「大化改新」』 著者:仁藤 敦史 / 出版社:吉川弘文館 / 発売日:2022年08月20日 / ISBN:4642059555 しんぶん赤旗 2022年10月30日掲載
吉川弘文館