八女茶発祥の地・霊巌寺 山中の奇岩と周囲に広がる緑の絶景/福岡県八女市
座禅岩からは、日本三大奇岩の一つといわれる男岩(別名・珍宝岩)や地蔵岩などの奇岩群が見えた。高さ12メートル、直径4メートルの堂々とした男岩は、市によると「自然にできたものとしては日本最大級」とのことだ。県指定天然記念物でもあるその造形美は、火山灰と石が固まってできた岩が浸食、風化され、生まれたそうだ。
ずっと変わらぬ情景
山の斜面に茶畑や杉林が広がる360度のパノラマを堪能しているとき、「座禅岩って、どれ?」と下の方から女性の声が聞こえた。「ここを上れば、すぐですよ」と声をかける。「上れるかしら」と迷っていた女性たちは意を決したように、鎖を握ってゆっくりと進み始めた。
「まあ、すばらしい!」。思わず声を上げたのは、熊本県南関町から友人と2人で訪れた野口豊子さん(66)。座禅岩まで足を運ぶつもりはなかったが、寺の案内板を見て目指してきたのだという。
「こんなに大変だとは思わなかったけれど、報われた思いです」。野口さんは、すがすがしい表情で額の汗をぬぐった。
階段を下り、石像がずらりと並ぶ参道を通って本堂へ戻る。檀家(だんか)からもらったという本場の八女茶をいただきながら、終始穏やかな住職夫妻に話を聞く。
座禅岩までの道中、季節によっては、ヘビやハチ、時にはイノシシに遭遇することもあるそうで、怖くなって途中で引き返す人もいるという。
それほど遠くない昔、霊巌寺には住み込みの修行僧もいたという。数々の奇岩がそびえ、様々な生き物がくらす豊かな自然。寺の周囲に広がるこの緑の情景は何百年もの間、時が止まったかのように変わらないままなのだろうと感じた。
読売新聞