新日本酒紀行「玉川」
● 熟成と熱々の燗酒に向く! 変化が面白い酒 海の京都と呼ばれる丹後半島で、1842年に創業した木下酒造。地元だけで消費されていた酒を、国内外から注文が来る酒に転換したのは11代目の木下善人さんだ。 【写真】「酒造りのこだわり」はこちら! 2007年に、英国人のフィリップ・ハーパーさんを杜氏に抜擢し、それまでの日本酒になかったジャンルを次々と商品化。その一つがロックで飲む夏の酒「Ice Breaker(アイスブレーカー)」だ。氷が溶けるにつれ、温度とアルコール度数が下がり、味わいも変化。ペンギンのイラストラベルと商品名も業界を驚かせた。 また、江戸時代の製法を再現した濃醇甘口の酒「Time Machine 1712(タイムマシーン1712)」は、アイスクリームやブルーチーズ、地元名物の鯖の糠漬け、へしことのペアリングを提案し、飲み手の度肝を抜いた。 杜氏のハーパーさんは、「自然仕込」と呼ぶ酵母無添加の生〓(〓は酉に元)系酒母の酒造りに力を注ぐ。 たくましく育ったもろみは純米酒の原酒でアルコール度数が22%を超えることもあり、長期熟成と超熱い燗酒に向くのも特徴だ。一般的に燗酒の上限は55℃の飛び切り燗とされるが、「うちの酒は、そんなぬるく燗しない(笑)」とハーパーさん。「お茶くらい熱くすると、味がスパッと切れて、優しいうま味が広がる。燗冷ましもおいしいよ」。 原料米には京都府産の祝(いわい)や、コウノトリの野生復帰を応援する無農薬栽培米も使う。 「搾りたての酒は出発点」と木下さん。新酒もよいが時間が育てた酒のうまさは格別。「押し入れでも熟成できます。第二の酒造りは家で、マイ玉川を育ててほしい」。
(酒食ジャーナリスト 山本洋子) ※週刊ダイヤモンド2021年2月6日号より転載
山本洋子