【インドネシア】イスラエル製品の不買継続を ガザ攻撃1年、聖職者が呼びかけ
イスラエル軍がイスラム組織ハマスの奇襲攻撃への報復としてパレスチナ・ガザ地区へ大規模な攻撃を開始してから7日で1年がたつ。ガザ側の死者が4万1,600人を超える中、世界最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアでは、イスラム教聖職者組織「インドネシア・ウラマ評議会(MUI)」が人道的見地からイスラエル製品や関連商品のボイコットを継続するよう呼びかけている。不買運動は一部の企業の業績に影響を与えている。草の根レベルでも寄付によりガザで活動する団体を支援する動きが続いている。 「ボイコットをやめてはいけない。ジェノサイド(民族大量虐殺)は終わっていない」。 MUIのムハンマド・チョリル・ナフィス議長は9月25日の会見で、イスラエルや関連する製品の不買運動を続けるよう呼びかけた。チョリル氏はガザ住民の終わりのない苦しみは、イスラエルの占領からのパレスチナ解放を含む世界平和を築く上での義務と責任をインドネシアのイスラム教徒に思い起こさせるはずだと語った。 MUIは2023年11月にファトワ(宗教見解)『23年第83号』を発出し◇イスラエルの侵略に対抗するパレスチナ独立闘争を支援することは義務◇イスラエルによるパレスチナの侵略や、イスラエルを支持する勢力を直接的または間接的に支援することはハラム(イスラム教徒にとっての禁忌)――などと規定した。 同ファトワでは推奨事項として◇人道支援や寄付、勝利への祈りなどパレスチナの戦いを支援する◇イスラエルと関係のある製品、植民地主義やシオニズムを支援する製品の取引や使用を可能な限り避ける――ことなどを定めた。 インドネシアはイスラエルと国交を結んでいないが、機械などの品目が輸入されている。インドネシア中央統計局によると、23年の輸入額は前年比54%減の2,193万米ドル(約32億6,150万円)だった一方、24年1~8月は前年同期比3.1倍の4,096万米ドルに増加している。 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が、ガザ保健当局のデータとして公表している23年10月7日以降のイスラエル軍による攻撃でのガザ側の死者は少なくとも4万1,615人で、負傷者は9万6,359人に上る(いずれも9月末時点)。 国連の主要な司法機関の国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は今年1月、イスラエルに対してジェノサイドを防ぐ暫定措置を取るよう命じた。7月にはイスラエルによるパレスチナ占領は国際法違反だとする勧告的意見を出している。 ■ボイコット意識高いがインパクト欠く インドネシアでのイスラエル製品の不買運動は、MUIのファトワとは別にパレスチナで05年に立ち上げられた「BDS運動」としても展開されている。BDSはボイコット・ダイベストメント(投資撤退)・サンクション(制裁)の頭文字。標的にしているのは、米ヒューレット・パッカード(HP)、インテル、マクドナルド、ピザハット、バーガーキング、仏アクサなどの欧米ブランドだ。 BDS運動をインドネシア国内で主導している「グラカンBDSインドネシア」のシャウキ・ハフィズ氏は4日、23年10月以降の活動についてNNAに「市民の熱意や関心という側面ではボイコットの意識が非常に高く成功した。しかしイスラエルへの影響力という点では成果は限定的だった」と振り返った。 BDS運動の対象ではないが草の根レベルで有機的に広がったボイコットもあり、米スターバックスやケンタッキーフライドチキン(KFC)といった飲食チェーンがイスラエル寄りのブランドとみなされて不買の対象となった。 スターバックスをインドネシアでフランチャイズ展開するMAPボガ・アディプルカサは23年第4四半期(10~12月)に赤字に転落し、24年第2四半期(4~6月)まで3四半期連続で純損失を計上している。KFCをフランチャイズ展開するファストフード・インドネシアは23年第3四半期(7~9月)から赤字が続いているが、不買運動が広がった同年第4四半期以降に純損失が拡大した。 シャウキ氏は「ボイコットの熱意の高さを示す証拠の一つだ」とした上で「これらの企業は影響を受けているが、イスラエルがパレスチナで犯した犯罪行為に対してインパクトを与えられるように運動を拡大させたい」と述べた。 一方スターバックスは2月にイスラエル政府や軍への援助はしていないと説明している。 ■新興企業が医療NGOへ寄付 インドネシア国民のパレスチナへの連帯は不買運動への参加だけでなく寄付による支援によっても示されている。オンライン寄付プラットフォームを手がける新興企業キタビサは9月中旬、同プラットフォームで集めたパレスチナを支援するための寄付金15億2,132万5,000ルピア(約1,450万円)をインドネシアの医療支援NGO「医療緊急救援委員会(MER―C)」に手渡した。 MER―Cの声明によると、キタビサのビクラ・イジャス最高経営責任者(CEO)は、パレスチナはイスラム教徒としてだけでなく人間としての闘争の象徴であり声を上げ続けるよう呼びかけた。 寄付とは別にキタビサはMER―Cとともに、MER―Cがガザの活動拠点とする「インドネシア病院」に小型バスも寄贈した。 ■新政権にイスラエルとの国交樹立拒否求める インドネシア国防省は人道支援のため国軍の医療要員34人をガザへ派遣している。8月に第1陣の25人を、9月に第2陣の9人を現地へ送った。 ジョコ・ウィドド大統領は5日、国軍の設立79周年記念式典で「全ての国が対話や協議を通じたソフトアプローチをしていればガザやレバノンでの衝突は避けられた」と述べた。イスラエル軍によるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの攻撃を含めて、紛争は対話でのみ解決できると強調した。 グラカンBDSインドネシアのシャウキ氏は、ジョコ政権の中東外交に関しイスラエルとの国交正常化の拒否やジョコ大統領が過去にイスラエル製品のボイコットを呼びかけたことを評価していると述べた。ただ、中東情勢に影響力を与えるほどの段階には至っていないと指摘。次期プラボウォ・スビアント政権には引き続きイスラエルと国交を結ばないよう要求することに変わりはないとした。