「待ってくれ。日本の威信が傷ついてしまう」会議の裏でチャットが飛び交い…神田前財務官が頭を抱えた“G7の舞台裏”
歴史的な円安の対応に奔走し、「令和のミスター円」と呼ばれた神田眞人前財務官が、在任当時の激動の日々を振り返る。 【画像】「令和のミスター円」との異名も…神田前財務官を見る 2023年10月に開かれたG7財務大臣・中央銀行総裁会議は成功裏に終わるはずだった。しかし、ハマスのイスラエル攻撃で各国の大臣や財務官がざわつき始め……。 ◆◆◆
会議の裏で飛び交うチャット
一所懸命、事前調整をし、鈴木財務大臣に円滑かつ成功裏に会議を締めて頂けることを想定していたが、会議の終わりが近づくにつれ、不穏な雰囲気となった。 淡々と別の議題の議論が進む中、各国大臣と財務官が頻繁にひそひそ話で相談をしたり、突然、財務官が立ち上がって、携帯電話片手に離室したり、どうも変だと思っていたら、これまた各国財務官から「本当に悪い。ハマスの攻撃で本国の方針が変わり、突如、今の案文では持たなくなりそうになった。一旦、合意したのは事実であり、申し訳ないが、中東情勢の急変という異例の事態なので、大臣が声明文に反対の発言を求めたとしても、海容されたい。最後まで本国と折衝するが」といったチャットが相次ぐ。 議場という平場(おもて)では挙手して話すことができないような本音を、WhatsAppのようなショートメッセージでやり取りするのはここ数年の新現象だ。机の下で目立たぬようにスマホを確認すると、数分のうちに数十本ものチャットが飛び込んできている。変なメッセージが来ないようにと祈りながらスマホを見るときに限って、とても調整できそうにない悲報に絶望する。 「待ってくれ。それじゃあコミュニケ(共同声明)が出せなくなってしまう。G7が分裂するとの誤解を世界に与えるし、正直、議長国日本の威信が傷ついてしまう。何週間もかけた折衝の結果、先刻、しっかり合意に至ったじゃないか」と抵抗しつつ、万が一に備え、代替の案文を検討した。 すると、最後の最後になって、ある国の財務大臣の発言を契機に、G7各国大臣から「既に一旦、合意しているし、このような最後の段階になって申し訳ないが、本国からの指示で、今の案文では飲めなくなった。ハマスの攻撃による政策変更なのでやむをえない。修正を求める」といった発言が続いた。