認識のズレも…トランスジェンダー当事者を取り巻く「医療の問題」
「女性/男性に当てはまらない性」「二元的ではない性」を自認するトランスジェンダーである吉野 靫さん。 【写真】世界を変えるパワーに!美しき10人のトランスジェンダーたち 2006年、大阪医科大学ジェンダークリニックにおいて医療トラブルに遭った吉野さんは、翌年大阪医科大を提訴。2010年に複数の条件で和解に達し、和解条項の公表も条件に含み、勝利的和解となりました。 著書の中では、特例法※の制定とトランスジェンダー当事者の中で生まれたGID(性同一性障害)規範の関係、 GID医療において統一的なQOL(生活の質)の基準が作られていないという課題についても書かれています。 ※性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 本記事では、GID医療の問題点をはじめ、当事者が安心して医療を受けられるためにはどう変化していくべきなのかを、吉野さんに伺いました。 《プロフィール》 吉野靫(ヨシノユギ) クィア、トランスジェンダー。立命館大学先端総合学術研究科修了。学生時代は、学費値下げ運動とジェンダー・セクシュアリティ問題への取り組みに傾倒。2007年から2010年まで身体改変にまつわる医療訴訟を経験。 猫と暮らす。 香港の古いカンフー映画、韓国映画が好き。中島みゆきとザ・クロマニヨンズをよく聴く。ヨガ歴13年。
GID医療の問題点とは
著書の中で吉野さんは、「特例法が想定する『性器形成を望むGID当事者』の姿には、GID診断をくだす医療現場が生み出した『幻想』が入り込んではいないだろうか」と指摘しています。ジェンダー規範や特例法の要件が「二元的な性別の正当性」というプレッシャーを当事者に与え、それはGID診断現場にも持ち込まれているというのです。さらに、診断のとき最も重視されたのは「“逆の性”の感覚をどれだけ持っているか」との点だったとも綴っています。 性同一性障害の診断が下りなければ、その後のホルモン投与や外科手術が受けられないことが多いため、医療の現場では以下の悪循環が起きていると吉野さんは指摘しています。 ・“診断をもらうために”普段自分が好むファッションと違っても、FTMは短髪にして男性っぽい服装で、MTFはスカートを履いて診察へ行く。(田中玲『トランスジェンダー・フェミニズム』インパクト出版会2006) ↓ ・当事者内で過剰なジェンダーステレオタイプのアピールが起こり、医師のデータにもそれが蓄積されていく。 ↓ ・「逆の性」に同化することが前提の治療方針を提案されることで、当事者の心身の在り方も“二元化”されていく。 ↓ ・実際は違っても「自分の身体が嫌い」だと言うことで次につながりやすい構造になっている。 ↓ ・大学病院側(当事者内では「正規ルート」と呼ばれる)の持つトランスジェンダー当事者の情報が偏っていく。