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環境配慮?持続可能な昆虫食 極上の酒とのペアリングで広がる新たな食の世界

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NIKKEI STYLE
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今年7月1日、東京・池袋に外食大手ジローレストランシステムが手掛けるイタリア郷土料理の店「ペッシェドーロ ハレザ池袋店」がオープンした。普段使いの店から高価格帯のレストランまで、様々なイタリア料理店を手掛ける同社だが、同店は客単価4000~5000円(ディナー)。税込み1000円以下のメニューも多く、気軽に楽しめる価格帯でイタリア各地の料理を出すのが特徴だ。 そうした中で、目を引くのは中部イタリアの東側にあるマルケ州の名物料理「ヴィンチスグラッシ」。同州独特のラザニアだ。ラザニアと言えば、冷凍食品や料理キットがどのスーパーにも並び、日本人が最も好きなパスタ料理の1つ。ところが、同店ではこれを前菜として提供している。 ラザニアは幅広のパスタとホワイトソース、ミートソースなどをミルフィーユのように幾層にも重ね、オーブンで焼く料理だ。しかし、マルケ州のヴィンチスグラッシではホワイトソースを使わない場合もある。さらにミートソースには定番の牛肉だけでなく、鶏のモツなども使用しているためコクがある。通常のパスタとは異なり、ワインのつまみ感覚で楽しめそうな料理なのだ。現地では家庭料理やトラットリアなどの料理として親しまれ、ボリュームもたっぷり出てくるものだが、ペッシェドーロ ハレザ池袋店では小ぶりのサイズで提供している。 マルケはアドリア海とアペニン山脈にはさまれた州。聞き覚えがない人が多いだろうが、ルネサンス期の巨匠ラファエロが生まれた町ウルビーノもあり、芸術も大いに栄えた地方だ。2018年には海岸沿いの町セニガッリアのレストラン「ウリアッシ」がミシュランの三つ星を獲得した。イタリアに11軒しかない三つ星店の一つである。豊かな楽しみにあふれた土地なのだ。 19年10月に東京・赤坂にレストラン「aniko」をオープンした井関誠さんは、やはりセニガッリアにあるミシュラン二つ星レストラン「マドンニーナ・デル・ペスカトーレ」で修業した。「海と山に挟まれた地方ですから、両方の食材が味わえるのが特徴です。また、イタリア中部に位置するので北と南の食文化の出合いの場でもある。例えば、北イタリアでよく用いる卵を練り込んだ平たい生パスタを、肉を使ったソースではなく魚介に合わせたりするんです」と井関さんは説明する。 マドンニーナ・デル・ペスカトーレではメニューの9割が魚料理だったといい、マルケでも魚料理と肉料理が特徴的な地域は分かれる。でも、「海側からほんの少し内陸に入ったところなら、どんとした肉料理やトリッパ(内臓の一種)の煮込みなどが食べられる」(井関さん)とか。「僕がいた店は創作料理のレストランでしたが、シェフのお母さんが時々ドーナツのような揚げ菓子を作ってきてくれたりして、シェフのレシピにもマンマの味が反映していた。現代的な料理の中に伝統をしのばせた味が、お客様に評判でした」。井関さんは5年に渡り同店で修行、メイン料理を任されるシェフにまでなった。 マルケの料理をテーマとしたanikoでは、マドンニーナ・デル・ペスカトーレのオーナーシェフ直伝の創作パスタも出すが、メニューにはマルケの「マンマの味」と言えるような名物料理も並ぶ。その一つが、ペッシェドーロ ハレザ池袋店にもあった、ヴィンチスグラッシだ。 「イタリアでは、余った食材をしばしば料理に用います。マルケ版ラザニアに鶏のレバーやハツを使うのは、そうした発想に連なります。カレーライスみたいなもので、家庭や店によって味が異なるんですよ」と井関さん。anikoのヴィンチスグラッシも、もちろんこの店ならではの味わいで、ミートソースには牛、ブタ、カモと3種類の肉を使った上で、鶏レバーとハツを加えている。深みのあるコクを出すためのレシピで、内臓はあくまで隠し味。味わいにまろやかさを加えるホワイトソースは少量使用しており、パスタの層は10層ほどにもなる。 しかも、このラザニア、なんとギョーザのような「羽根付き」なのだ。カリカリのチーズの羽根で、これとコクのあるミートソースが合わさった料理となれば、酒が進まないわけはない。レストランでコースに組み込まれる場合は別として、日本ではパスタというとシメのご飯に似たイメージがある(パスタはコース料理の場合、肉や魚のメイン料理の前に出される料理となる)。しかし、ヴィンチスグラッシは格好の酒のお供として、これから注目されそうな気配だ。 さて同店メニューには、やはり抜群の酒のつまみとなるマルケ名物、肉詰めオリーブのフライもある。オリーブに肉を詰め細かいパン粉を付けて揚げたもので、現地では主にフードトラックなどで売られる屋台料理だという。マルケ州南部の内陸部の町、アスコリ・ピチェーノの名物だ。 簡単な料理かと思いきや、オリーブの実をリンゴの皮のようにらせん状にむいて種を取り出し、そこにたっぷり肉を詰めて揚げたもの。手間がかかるため、井関さんは、お手軽メニューが中心となる現地のバルでは見かけたことがないそうだ。anikoでは、中に詰める肉も手がかかっていて、香味野菜と牛のモモ肉を2、3時間煮込んでからミンチにしたものを使用する。隠し味はレモンの皮とナツメグだ。 このオリーブの揚げ物を売る屋台では、必ず別の揚げ物も売っているそうだ。それは「クレマフリッタ」と呼ばれる甘いカスタードのフライ。「フリットミストと呼ばれる揚げ物の盛り合わせがイタリア各地にありますが、これには甘いネタも入るんです。北イタリアならば、アマレッティと呼ばれるお菓子を揚げたりする。マルケでは、カスタードを固めて揚げたものが定番。しょっぱいものと甘いもので味のバランスを取るんですよね」(井関さん)。同店のメニューにもクレマフリッタが並ぶが、これが意外にもワインに合う。 同店で用意するワインは6割がマルケ産のもの。「比較的軽やかな赤ワインがあり、海沿いの産地のワインならば塩味(しおみ)もあるので、魚介にも合わせやすい。また、土着品種である白ブドウ、ヴェルディッキオのワインはマルケの酒として有名です。白い花のような香りやかんきつの華やかさがあり、心地よい酸とミネラルを感じる。後味にグレープフルーツのような、いい意味での苦みもあるんですよ」(井関さん) 近年は、よく知られたトスカーナやシチリアなどだけでなく、様々な州の料理を看板としたイタリア料理店が目に付くようになった。その中でも、誰もが知るラザニアやオリーブの新しい顔を見せてくれるマルケ料理は、これから大きく注目されそうだ。 (フリーライター メレンダ千春)

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