PayPalのステーブルコインは金融の分岐点──5年後、歴史の転換点だったと気づくだろう
「イノベーションは、誰がリーダーで誰がフォロワーかをはっきりさせる」- スティーブ・ジョブズ ペイパル(PayPal)は2023年8月7日、ペイパルUSD(PYUSD)を発行すると発表した。5年後、私たちはこの瞬間を振り返り、これが歴史の転換点だったと気づくだろう。なぜそう言えるのか? この日まで、暗号資産(仮想通貨)開発者の大半は、暗号資産の世界の中にいた。この分野を動かす最大の企業は、取引所とステーブルコイン発行会社だった。最大の時価総額は、ブロックチェーンそのものだった。ICOブーム、DeFiの夏、NFTの台頭はすべて、すでにこの分野に参入していたユーザーや開発者を主な対象としており、互いにそのテクノロジーをより多く利用することを可能にしていたという意味で、この分野のアクティビティの大半は極めて自己反映的だった。 私はこの現象を「暗号資産のための、さらなる暗号資産」を開発する悪習慣と呼んできたが、この時点までは、この業界の成長と進化を定義していたのはほとんどこれだった。 それが変わった。4億3000万人以上の顧客を抱える世界最大級の決済会社ペイパルが、自社のビジネスモデルを進化させるために何年もかけて製品を作ることをいとわないほど、ブロックチェーン・テクノロジーは重要だと旗を立てて宣言した。もちろん、ペイパルにはペイパルアプリ(そして至る所にあるCheckoutボタン)があり、ベンモ(Venmo)もある。そして今や、ペイパルはPYUSDも揃えようとしている。
なぜそれほど重要なのか?
ブロックチェーンは、根本的に異なる形の経済機構だ。特にパブリックブロックチェーンは、中央集権的な仲介者を必要とせずに価値を交換するための、オープンで多対多のインターフェース。 PYUSDは、ブロックチェーンの当初の約束に立ち戻らせてくれる。それは、世界中のどこにいても、取引を手伝ってもらうために銀行(あるいはもっと悪いことに、延々と続く一連のコルレス銀行)を信頼したり、お金を払ったりすることなく、価値を送ることができるというものだ。 この種のプラットフォームは時とともに、独占を打ち崩し、中央集権的なカウンターパーティーにコントロールされることなく、人々が独自の金融的つながりを形成することを可能にする。お金をめぐる権力を人々に返すことになる。 しかし、ブロックチェーンの価値はそれを使う何かを、さらには、現実世界でそれを使う何かがなければ、解き放つことはできない。PYUSDが時間の経過とともに世界各地でオンライン化されるに伴って、現実を変えるのはこの点だ。従来のペイパル・プラットフォームにブロックチェーンを付加することで、PYUSDを親戚や業者、従業員に世界中どこでも送ることができる(少なくとも、そのような計画だ。ただしPYUSDは今のところ、アメリカ国内でのみ利用可能)。 もちろん、これは従来のステーブルコインにも言えることだが、重要な違いがある。PYUSDはペイパルの残高の一部になる。従来のやり方で簡単に現金化できる。もちろんPYUSDをそのまま保持することもできる。流動性は価値を高め、選択肢も価値を高める。ペイパルはPYUSDによって、ブロックチェーンを多対多の取引のためのものから、取引後に受け取った価値をどうするかについての多対多の選択肢へとシフトさせた。 時間の経過とともに、ブロックチェーンの普及と、より速く、より安価で、より安全な取引は、この根本的なシフトによって拡大していくだろう。現状は、多くの企業や個人が、暗号資産ネイティブのステーブルコインを信頼できるかどうか、暗号資産ネイティブのプラットフォームが安定しているかどうか、そして他の人々がこのテクノロジーを利用することによって、自分たちの時間と投資を正当化できるかどうかに確信が持てず、傍観している。