【メルセデスSLを夢見て】キャデラック・アランテ イタリアからボディを空輸 後編
宇宙船のようなダッシュボード
text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン) photo:Luc Lacey(リュク・レーシー) translation:Kenji Nakajima(中嶋健治) 多くのパワーを求めていた自動車ファンに、キャデラックはアランテで応えることはできなかった。しかし、現実的な条件とのトレードオフで設定された動的性能だった。 【写真】キャデラック・アランテと現代のスポーツモデル ATSとCTS (31枚) メルセデス・ベンツSLに負けるより、燃費の悪い「ガスガズラー」とみなされることを恐れていたのだ。実際、アランテの複合燃費は当時の課税額が高くなる8.0km/Lより、わずかに優れている。 インテリアは、B級映画の宇宙船のよう。ウェッジシェイプのラゴンダのような、偏った未来感に溢れている。デジタルのメーターパネルは日本製。ほかにも約40%の部品が、アメリカ以外から調達されている。 アランテのイグニッション・キーをひねると、黒いLCDのデジタルメーター点灯。タコメーターとスピードメーター、水温計などが映し出される。直射日光が当たると見にくいが、それ以外は驚くほど鮮明な表示だ。 日が傾けば、直径の大きい2スポーク・ステアリングホイールのおかげで、美しいメーターパネルを眺めることができる。メルセデス・ベンツのものより小径で、繊細なハンドリングを狙っていた。 メーターパネルはシンプルで洗練された印象だが、センターコンソールは別。関数電卓のように沢山のボタンが並び、雰囲気を壊している。運転席からの眺めは、にぎやかだ。 ヒーターからオンボード・コンピューターまで、すべての機能に個別のボタンが用意されている。オートライト用には、トワイライト・センチネルという名前の振られたボタンもある。
座り心地が良いシートに優秀な人間工学
センターコンソールの中央に収まるのは、カセットテープのデッキ。子供の頃にシングルチャートをエアチェックして録音した、あれだ。アムストラッド製の自動車電話が、近未来感を高めている。 ボタン類の視覚的な印象は別として、アランテの車内は人間工学的に優れている。運転席は感心するほど快適。とても広々としていて、マルーンのレザーが周囲を包んでいる。当時2色が用意された、インテリアカラーの1色だった。 細かく調整できるシートは、レカロ製。筆者が今まで乗ってきたクルマのシートで、1・2を争うほど座り心地が良い。身長が高いドライバーでも、運転姿勢に不満を感じることはないだろう。 一般道での乗り心地は洗練され、ルーフを開いていても風の巻き込みやバッファー音の発生は驚くほどない。アランテで、一番強い印象を受ける部分でもある。ピニンファリーナも、一番腐心した部分だと思う。 今回試乗したキャデラック・アランテは、1万2650ポンド(170万円)でボナムズ・オークションにかけられる。それに先駆けて、英国チェスター州の田舎道を運転することができた。イタリアのデザイナーは、ドライブを想定していなかった場所かもしれない。 GMはアランテの欧州でのヒットを期待していたが、ほとんどが北米に残った。今回の試乗車も含めて、スイスなどに若干入ってきた程度だった。