高橋留美子のダークサイド、怖くて悲しい…「人魚シリーズ」の辛すぎたエピソード
■若さへの執着が生んだ姉妹の悲劇『人魚の森』
『人魚の森』では二人の深まる絆と、人魚の肉によって数奇な運命を辿った姉妹の物語が描かれる。 真魚にとって、世界は刺激で満ち溢れていた。そんな折、猫を追ってトラックにはねられてしまう。医者の策略で、心肺停止の真魚は登和と佐和という双子が住む神無木家に運び込まれる。目的は、人魚の生き血の副作用で、半分“なりそこない”になった登和の腕を付け替えることだった。『人魚の森』に登場する“なりそこない”とは、人魚の肉を食べた人間が急激な身体の変化に耐えられず、半魚人のような生き物のこと。登和は生き血を口にしたせいで、右腕だけが異形に変化してしまったのだった。 湧太は神無木家を訪れるも、“なりそこない”になった犬に襲われ捕まってしまう。不老長寿とはいえ痛みはあるわけで、毎回死にかける湧太はちょっと可哀想だ。 佐和はそんな湧太を助け、60年前に人魚塚の秘密を受け継いだ自分が、病気の登和を救いたい一心で人魚の生き血を飲ませたと明かした。だが、この話には闇が隠されていた。 当時の佐和は、人魚を口にした者の末路を知っていたのである。それでも飲ませたのは、効き目を確かめたいという邪心だった。実験台にされた事実と、「私が人魚塚を継いだら、まっ先に人魚の肉を食べてしまう。だって いつまでも若く美しいなんて、素晴らしいじゃないの」という佐和の過去の言葉を思い出した登和は、恨みを募らせた。 真魚たちを使って人魚塚の場所を突き止め人魚の肉を手に入れた登和は、冷酷な目で「さあ食べてよ……あなたに食べてほしくて探し続けた」と佐和に恨みをぶつける。 だが、佐和は食べる前に心臓麻痺で死んでしまう。勝ち逃げのような最期に、登和は「ずるい人」と涙を流し、燃え盛る人魚塚の中で自ら命を落とした。 生き血の副作用に苦しみ隔離されてきた登和と、結婚・出産という経験をして人間らしく歳を取った佐和。登和の辛さと憎しみを思うと、胸が痛くなってしまう。どんな姿になっても登和を愛していた許嫁の医者・椎名と向き合えたら違っていたのだろうか……。