見逃し配信の再生数は歴代最高...NHK大河ドラマ『光る君へ』を名作たらしめた“共感力”とは? 振り返りレビュー
一人として完璧な人などいなかった
大石がかつて手がけた『知らなくていいコト』(日本テレビ系)で道ならぬ恋に落ちる二人を演じた吉高と柄本の相性の良さも物語を盛り上げた大きな要因だ。大人の女性としての魅力もありながら、どこかに天真爛漫な少女性も残している吉高と、包容力に溢れていて、独特の色気を感じさせる柄本。二人が作り出す甘くて切ない空気感に陶酔させられた。 そして、まひろと道長の転機となったのが、直秀(毎熊克哉)の死だ。どちらにとっても大切な存在だった直秀が無残な形で殺されたことをきっかけに、二人は「より良き世をつくる」という共通の目的を持つソウルメイトとなる。 民のための政を成すべく、元々は距離を置いていた権力闘争に身を投じていく道長と、やがては彰子(見上愛)の女房として影で道長を支えつつ、人々の心を慰める物語を紡ぐまひろ。 そんな二人を取り巻いていたのが、人間味あふれる登場人物たちだ。和歌や漢籍に通じる文人であるが、政治的駆け引きが苦手で出世のスピードは遅かったまひろの父・為時(岸谷五朗)、公卿たちに翻弄されない強い帝になってほしいという思いから、息子である一条天皇(塩野瑛久)を操り人形にしてしまった詮子(吉田羊)、その孤独から自分を救ってくれた中宮・定子(高畑充希)を愛するがゆえに、政務が疎かになってしまう一条天皇(塩野瑛久)など、本作のキャラクターは一人として完璧な人などいなかった。 だからこそ、私たちは歴史上の人物でしかなかった彼らに心寄せることができたのではないだろうか。
芸人たちの演技が神がかっていた
キャスティングも秀逸で、特に本作は芸人たちの演技が神がかっており、視聴者に千年以上も昔の親しみを持たせるのに一役も二役も買っていた。 特に話題を集めたのが、藤原実資を演じたロバートの秋山竜次だ。さすがのなりきり具合で、平安貴族を演じていても全く違和感がなく、要所要所で顔芸を披露しては私たちを大いに笑わせてくれた。だが、ただの面白キャラではなく、常に冷静かつフラットな視点で状況を見極め、必要とあらば自分より位が上の人間にも恐れず意見する優れた政治家だった実資。その矜持を感じさせる秋山の熱演に痺れた人も多いだろう。 まひろの従者である乙丸を演じた矢部太郎の好演も光った。ちやはを守れなかったことで自分を責め続け、せめてまひろだけは守ろうと精一杯尽くしてきた乙丸。側からはまひろに振り回されているように見えるが、その実、しっかりと手綱を握っていて、何度もまひろが危険な目に遭うのを回避してきた。そのまひろに対する深い愛情と芯の強さが矢部の佇まいから滲み出ていたように思う。