大ヒットで単館から異例の全国公開へ! 『侍タイムスリッパー』監督が語る制作秘話「スターで映画を作るより、映画でスターを作ったほうが面白い」
安田 確かに、そういう感想は届いています。でも、新左衛門は時代劇の俳優ではなくて、その正体は幕末の侍です。だから、あのシーンはあくまで侍としてのプライドをかけて戦った場面であり、「真剣の殺陣」を称賛しているわけではありません。 そもそも山口さんは真剣という設定で殺陣をしているだけで、本当に真剣を使っているわけでもないんです。そうリアルに見える演技力がすごいって言われるべきだと思います。 僕は『侍タイムスリッパー』で時代劇史上、最も観客が真剣での戦いだと錯覚するような殺陣をやるのだと決めていました。今も時代劇は作られていますが、若い俳優さんがブンブン振り回していて、刀の描き方が昔に比べて軽いことが、どうしても気になる。 昔の時代劇は刀の重さをしっかりと描いていたと思うんです。それを再現することが個人的なテーマでした。「あんなん真剣に見えへん」っていう感想がないのは、むしろ狙いがうまくいったと受け止めています。 ――それでは最後に、映画監督としての今後の展望をお聞きしたいと思います。 安田 企画は何本もあるんですけど、自分のお金ではもう限界です。誰かに資金を出してほしい(笑)。 ――むしろ、オファーが殺到すると思いますよ。 安田 僕はスターで映画を撮るよりも、映画でスターを生み出すほうが面白いと思っています。自分が有名になりたいとかまったくないので、今回の山口さんのように、出演してくださった方々に光が当たるような映画を作っていきたいですね。 ●『侍タイムスリッパー』 監督・脚本・撮影:安田淳一 出演:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎ほか 幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は、長州藩士との戦いのさなか、落雷に打たれて気を失う。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった! 140年前の江戸幕府の滅亡を知り絶望する新左衛門。しかし時代劇に心打たれ、優しい人々の助けもあって、やがて自らの剣の腕を頼りに「斬られ役」として生きていく決意をする。当初は単館での公開だったが、口コミで評判が広まり、9月13日から全国100館以上で順次拡大公開中 ●安田淳一 1967年生まれ、京都府出身。大学卒業後、さまざまな仕事を経てビデオ撮影業者に。『拳銃と目玉焼』(2014年)で映画初監督。2作目の『ごはん』(17年)はイベント上映などで38ヵ月のロングラン。23年、父の逝去により実家の米作り農家を継ぎ、コメ農家兼映画監督として活動中 取材・文/小山田裕哉 (c)2024 未来映画社