大ヒットで単館から異例の全国公開へ! 『侍タイムスリッパー』監督が語る制作秘話「スターで映画を作るより、映画でスターを作ったほうが面白い」
――SNSの口コミでは、主演の山口馬木也(まきや)さんが、「本物の侍にしか見えない」と、その演技を絶賛する声も目立ちます。 安田 山口さんは時代劇俳優として長年のキャリアがあるにもかかわらず、すごく強い思い入れを持って新左衛門を演じてくれました。撮影中は本当に新左衛門という侍がいるのかと錯覚するほどでした。 ――まさに役になりきって。 安田 ただ、それだけのめり込んでいるから、演技に納得できないと撮影にストップがかかるんですよ。僕は「このセットは1時間○万円なんやけどな......」とか思いながら撮っているわけで、頭が痛かったですね(苦笑)。 でも、そこまでこだわってくれたから、これだけ評判になったんだし、山口さんの熱演に呼応するようにほかの俳優さんたちもノリノリになって。だから、山口さんをキャスティングできたのも、運が良かったことのひとつですね。 ――本作は"伝統的な時代劇"への愛が感じられました。そもそも、なぜ時代劇をテーマに? 安田 僕が子供の頃に見ていた『遠山の金さん』や『水戸黄門』は、派手な殺陣ではなく、庶民の人情ドラマを中心に描かれていましたよね。僕は『男はつらいよ』シリーズも好きなんですけど、ああいうのを自分の映画でもやりたいと思っていたんです。それを現代でやるなら、やっぱり時代劇だろうというわけです。 ――じゃあ、殺陣のアクションというより、人情ドラマをやりたかった? 安田 きっかけはそこですけど、時代劇をやるからには殺陣が見せ場にならないといけないこともわかっています。幕末の侍が現代の撮影所で斬られ役になるというだけでも、物語としては面白い。でも映画としてのパンチは弱い。 で、撮影所を舞台にした映画といえば、『蒲田行進曲』(1982年)があります。あの作品は最後に度肝を抜かれる階段落ち(人が階段を転げ落ちるシーン)が有名です。この映画でも、それに匹敵するクライマックスが必要だと考えたときに、本物の刀で切り合う設定の「真剣の殺陣」を思いつきました。 ――高坂新左衛門が劇中で演じる殺陣が、とある理由で真剣を使った斬り合いになるシーンですね。緊張感が伝わってくる、迫力ある場面でした。 ただ、時代劇ではタブーである「真剣の殺陣」を往年の時代劇へのリスペクトをうたった本作で表現したことには、いくらか批判の声もあります。