大ヒットで単館から異例の全国公開へ! 『侍タイムスリッパー』監督が語る制作秘話「スターで映画を作るより、映画でスターを作ったほうが面白い」
――『ごはん』には"日本一の斬られ役"と言われた時代劇俳優の福本清三さん(*2)も出演されていました。『侍タイムスリッパー』のエンドロールには福本さんの名前もクレジットされていますね。 (*2)50年以上にわたって"斬られ役"を演じてきたことから、「5万回斬られた男」の異名を持つ伝説的な俳優。『侍タイムスリッパー』では「殺陣(たて)師の関本」のモデルとなった。2021年1月1日に77歳で逝去 安田 以前から大好きな俳優さんで、『ごはん』のときにダメ元でお願いしたんですけど、いつもの侍ではなく、農家の役っていうのは面白いと、自主映画にもかかわらず出演してくれました。 『侍タイムスリッパー』を企画した際も、ぜひまた出ていただきたいと福本さんの担当の方に脚本を渡していました。劇中で主人公の高坂新左衛門が師事する殺陣師を演じてもらうつもりでしたが、21年に亡くなられてしまい......。あのときは泣きましたね。 ――それだけ敬愛していた。 安田 福本さんが亡くなって、この企画はどうなるんやろと途方に暮れました。そんなとき、脚本を読んだ東映の京都撮影所(*3)の美術部や衣装部のチーフの方々にこう言われたんです。 「本来なら自主制作の時代劇なんて、予算がかかりすぎるから反対する。でも、これは本(脚本)がおもろい。せやから、みんなでなんとかしたる」って。 セットをほかの作品の撮影で使わないときに安く利用させてもらったり、撮影所にすでにある衣装を貸してくださったりと、京都撮影所の方々が協力してくれたことで、時代劇としてはかなりの低予算で制作することができました。 (*3)京都で100年の歴史を持つ撮影所であり、日本最大のスケールがあることから、広大なオープンセットを必要とする時代劇の撮影に長らく使われてきた。「東映太秦映画村」が隣接していることでも有名 ――具体的にはどのくらい? 安田 とはいえ、トータルで2600万円はかかりました。貯金を全部使い、それでも足りない分は車を売ってなんとか捻出しましたね。 ――しかも、今年の4月には追加撮影までしたそうで。 安田 全体の撮影は22年に終わっていたのですが、1ヵ所だけ制作費が足りなくて撮影できなかったんです。新左衛門が会津藩での青年時代を回想するシーンなんですけど、そこ以外の撮影が終わって貯金を見たら、7000円しか残ってなくて、これはあかんと。でも、あのシーンはどうしても入れたかったんです。 回想がなくても物語としては成立します。でも、現代にタイムスリップする前の思い出を映像で見せたほうが、映画としての深みが出る。だから、またお金をためて撮影しました。こんなわがままができるのも自主映画ならではですね。 ――でも、その細部のこだわりが時代劇としてのリアリティにつながったと思います。 安田 それはうれしいですね。ただ、商業映画だったら絶対にアウトです(笑)。自分で制作費を出しているから、やりたいことをとことん追求させてもらいました。 ■「真剣の殺陣」というタブーに挑む