女子フィギュアGPシリーズで3連勝したロシア新星3人少女の衝撃と4回転時代幕開けの波紋
そして先のフランス杯である。 昨年のジュニアのGPファイナルを制したアリョーナ・コストルナヤ(16、ロシア)が4回転ではなく、トリプルアクセルを軸に優勝を果たす。SPでは、トリプルアクセルの回転不足をとられながら、スピン、ステップのすべてレベル4で76.55点を獲得、74.24点だったソチ五輪女王のザギトワをリードして首位発進すると、フリーではトリプルアクセル+2回転トゥループの連続ジャンプから、ソロのトリプルアクセルに成功。いずれも2.29点、2.63点と高いGOE加点を得た。フリーは159.45点で計236.00点。2位のザギトワに19.94点の差をつけて初優勝を果たした。試合後、ザギトワは、「4回転を跳べる女の子たちは『とてもすごいな』と思う」と、不機嫌な様子で、同じくエテリ・トゥトベリーゼコーチの門下の後輩たちの衝撃的なシニアデビューの旋風について語った。 元全日本2位で現在、福岡で指導者をしている中庭健介氏は、この3人のロシア新星少女のシニアデビューに「世界が衝撃を受けている」という。 「シェルバコワ、トルソワの2人は、4回転をルッツまで跳ぶ。しかも複数回跳ぶ。野球で例えれば、いきなり新人が4割、40本、40盗塁したくらいの衝撃です。シェルバコワのルッツは、2段ジャンプのように跳ね上がっていきます。しかも、彼女らは、それをミスしない。関係者のお話や、エキシビションでも成功している事から、成功率がかなり高いと思います。さらに想像を上回ったのが、彼女たちの演技構成点への評価です。そこをどう評価されるかだけが気になっていましたが、8点の中盤台をキープするなど平均値として高い点数をもらっています。多少スケーティングの質でジュニアっぽさは残っていますが、究極の難易度の高いプログラムでありながら複雑なつなぎや音楽への調和などにも抜け目がありません。技術点で圧倒的にリードし、演技構成点も平均点はあるとなると、もう完成度で追いつける次元にはありません。4回転、あるいはトリプルアクセルがないと勝負できない時代に突入しました」 シャルバコワのフリーでの演技構成点は、5項目で8.25点から8.86点の評価を受けて67.96点。スケートアメリカのフリーでの演技構成点の最高は2位だったブレイディ・テネル(米国)の69.16点だから、ほとんど差はない。フリーの後半でコスチュームを脱ぎ、色を変え、イメージチェンジする演出も話題を呼んだ。 スケートカナダでのトルソワの演技構成点も8.04点から8.64点を取り67.42点だった。4回転を跳べない実績組が、唯一太刀打ちできる部分でも彼女たちは平均点をクリアしているため、技術点に生まれる差を埋めることができないのだ。 では、彼女らに弱点はないのだろうか。 「4回転ジャンプは失敗のリスクが伴います。複数のジャンプで転倒などのミスが出れば、大きく点数を落とす可能性があります。起き上がる動作で音楽との調和はずれ、完成度は下がります。今のところ大きなミスはありませんが、負の連鎖が起きたとき、他の選手はノーミスの演技で得点をキープして勝ち切るしかありません。ただ4回転でなくトリプルアクセルを武器にしているコストルナヤだけは3人の中でも上品な滑りやジャンプ自体の質の高さが際立っています。ミスから自滅というパターンは考えにくいのです」と中庭氏。 フランス杯を勝ったコストルナヤは、演技構成点では5項目の中に9点台もあって71.07点を稼いだ。演技構成点では、ピカ一のザギトワが72.97点だったから、この得点は脅威である。 中庭氏は、こう続ける。 「北京五輪は、現行のルール、今の流れのままであるなら技術点の勝負になるでしょう。ただコストルナヤのようにトリプルアクセルがあれば対抗はできると思います。紀平さんは十分勝負できますし、ジュニア世代にもトリプルアクセルを跳ぶ選手が出てきています。“あの人が跳べるなら私も跳ぶ”という自信の連鎖というものが生まれるものなのです。ロシアのエテリチームから次から次へと4回転ジャンパーが生まれているのもそういうことなのでしょう」 ジュニア世代の中では、吉田陽菜(14、名東FSC)、横井きな結(14、邦和スポーツランド)、河辺愛菜(15、関大KFSC)らがトリプルアクセルに成功している。ロシアの3人の新星少女が巻き起こした女子4回転時代から取り残されるわけにはいかない。