メイウェザー対天心の危険な体重差とボクシングルールをJBCが問題視
今回の試合のメイウェザーの契約体重は、ウェルター級の147ポンド(66.68キロ)で、両選手は8オンス(226.8グラム)のRIZINのボクシンググローブを着用することになっている。フェザー級を主戦にしている天心とは、実に4階級差である。天心は本来の動きを生かすため、特別に増量する考えはなく60、61キロの体重でリングに上がる準備を整えている。減量がない分、2階級差くらいには縮まるが、それでも5キロ以上の体重差がある。計量後のメイウェザーの増量を考慮すると、さらに体重差が広がる可能性も高い。 ボクシングでは、かつてミドル級の石田順裕が、藤本京太郎の持つヘビー級の日本タイトルに挑戦しようとした際、JBCはヘビー級の下限である90.7キロ以上への増量を条件としヘビー級としてのランキング入りを査定するためのテストスパーリングまでを課した。石田は元WBA世界スーパーウェルターの暫定王者で、ミドルでは、あのゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)のタイトルに挑戦までしたボクサーである。それでも事故防止の安全面を担保するために厳格な処置が取られた。通常体重が84~85キロの石田は、一日5食の大増量作戦で、なんとか体を作ってリミットをクリアしていた。 競技としての試合の統括、管理を行うJBCとして当然の行動だったが、今回は、エキシビションであることも手伝ってか、RIZIN側からの事故防止に向けてのアクションはほとんど見られない。ボクシングのIBFなどは当日計量を課して、過度な増量に歯止めをかけているが、メイウェザー主導の今回のRIZINでは、そういう管理は行われない模様だ。 また8オンスグローブの使用も問題だ。 ボクシングでは、安全面からウエルター級以上の試合では、10オンスのグローブ使用が義務づけられている。ただメイウェザーが昨年8月にUFCの2階級王者、コナー・マクレガー(アイルランド)とボクシングマッチで対戦した際にも、8オンスのグローブ使用を両方が主張。アスレチックコミッションが特別に許可した例がある、おそらく、そういう経緯もあってメイウェザーは、なんらかの事態に備えて、今回も8オンスグローブの使用を主張したのだろう。 榊原実行委員長は、当初「グローブハンディを検討したい」とも明らかにしていたが、「やる」「やらない」のゴタゴタの中で、メイウェザー側に押し切られたようだ。これらの状況に関してもJBC関係者は、「体重差とグローブ。非常に危険です」と警告を鳴らす。 この日の会見でメイウェザーは、「3ラウンドであれば練習しなくてもできる。寝ていてもね。KOやダウンする心配はまったくない。試合を楽しみたいしファンも楽しめるような試合にしたい」と語っていた。おそらく得意のディフェンス技術を駆使して9分間を遊びに徹するのだろうが、もし、どこかで本気で殴りに来て、天心が、まともにパンチを受けでもしたら非常に危険なのだ。 天心は「それも想定しています。その時は全身体能力を使ってもらわない動きをします。でも、もらっても何とかなると思っています」と、十分な対策があることを明言したが、KOありのルールのため、天心が一発を狙ってアグレッシブに攻めることが予想される。そこに2階級上の元5階級王者のカウンターブローが炸裂するという可能性も十分に想定されるのだ。 メイウェザーは、50勝27KOで、KO率の高いハードパンチャーではないが、2階級上のそれが当たればガードの上からでもダメージは相当なものになる。UFC王者のマクレガーも、大の字になってのされることはなかったが、完全にグロッギーとなって10ラウンドにTKOを宣告されている。 将来のボクシング転向も含め、未来のある天才格闘家を潰してしまうことだけは避けなければならない。そして試合内容が、あまりに茶番だった場合、ボクシング界が受ける負のダメージも大きい。ボクシング界の懸念が杞憂に終わることを祈るだけだが……。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)