なぜ学校で「わかる子」と「わからない子」が生まれるのか? 「学力喪失」の仕組みと対策まで認知科学で解き明かす(レビュー)
小中学校で課外補習を手伝ったことがあって、そこは子供たちがわかる子とわからない子とに二分される冷徹な現場だった。学校で塾で家でさんざ勉強させられながら、なぜわからない子があれほど出るのか。同じ子がゲームやサッカーでは勝手に上達するのに――。 そんな疑問を抱いて解答は見つからずという経験は、子や孫の出来に一喜一憂してきたアナタにもあるはず。わからせるプロ集団の文科省からして暗中模索だしね。
でもワタシ、ついに答えを見つけました。『学力喪失』。著者の今井むつみは認知心理学の研究者で、幼児が言葉を、誰に教わるでもなく自ら身につけていく能力を解き明かした『言語の本質』(中公新書)はベストセラーになった。 一方、同じ子が長じて教育システムに組み込まれると、能動的、主体的に学ぶ力が失われていく。その現状の計測と理由の分析に加え、対策の実施までを小中学校で実践した記録でもあるのがこの新書。事実を把握して文脈を読み、仮説を立てて修正し……という、子供が血肉を通じてわかる仕組み(生成AIにはない! )が解き明かされる過程は快感でさえある。 が、同時に見えてくるのは、わからない仕組み。それが子供以外にも広く強く作用してて、算数の文章題を読み解けぬ理由がネットの嘘を見抜けぬ理由と重なることに気づくと、今度は怖い。変な大統領や妙な知事を復活させるような大人たちこそ、学ぶ力を喪失し続けてきたわけですから。 [レビュアー]林操(コラムニスト) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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