戦場カメラマン・渡部陽一「過去の戦争も今の生活につながっている」肩の力を抜いて戦争に向き合う基本 #戦争の記憶
いま私たちが抱える生活の不安の根源は過去の戦争にある
――日本における戦争の伝え方については、渡部さんはどう感じていますか。 渡部陽一: 日本でもかつて戦争があり、終戦から78年を迎えます。この間に、メディアや学校教育、日常の生活の中で戦争というものに触れる機会はたくさんあったと思います。そして、日常の中でそれに気づいたり、思いを寄せたりする場面もあれば、それが気持ちの中からしばらくなくなってしまうこともあったでしょう。それもまた現実で、その暮らしを繰り返すのが日常だと僕は思います。 日本では、兵士が来て武器を使い、たくさんの方の命を奪い合う戦争は終わっています。しかし、戦争によって残された傷痕によって、新しく生まれてくるたくさんの命が危険にさらされていく“第二の戦争”と呼べるものが起きていると思うんです。それは、日本だけでなくイラク、シリア、エジプトなど世界中の国でも続いています。化学兵器や原爆のような、後に影響を残す兵器によってさまざまな悲しみがいまだに続いているし、その悲しみに関わった人たちの悲しみがまたつながっていく。たくさんの方の暮らしや生活の土台が、戦争というつながりの中で揺さぶられていく現実があります。 もちろん、戦闘を直視するような極端な何かを突きつける、勉強していくというやり方もあります。ですが、そこで暮らしている人々の中に第二の戦争があって、残された新しい命にある傷痕に目を向けていきながら、日常の暮らしをしっかりと保っていく。戦場が日常につながっていることを気づくときに気づき、気づかないときには気づかない。その日常を繰り返していくことが、肩の力を抜いて戦争に向き合う基本だと思いますね。 ――経済復興という観点から1956年の経済白書に「もはや戦後ではない」と記載されましたが、戦争の被害者や被爆者に対する補償や米軍基地に関する問題など、いまだに解決していないことも多いですよね。 渡部陽一: そうですね。教科書だけを見ていると「これは試験に出た。解答が合ってたから、これで終わり」となってしまう。学ぶことは大切ですけど、一つひとつがパズルのようになっていてクリアしたら終わりのような感じがありますよね。もちろんそれも大切なことなんですけど、それだけでは暮らしの中に戦争がずっとつながっている意識が薄れてしまいます。 ただ、物価が上がったり雇用が不安定だったり。格差や差別があったり。日常生活や将来に不安をおぼえている私たちの生活の根っこにあるものを突きつめていくと、戦争があった大きな外国とのつながりや戦いの悲しみ、破壊された環境から復興に向かっていくやり方、経済、外交、政治の組み立て方、全てがつながって絡まり合っていることがわかる。過去の戦争も今の私たちの生活に染み込んで広がってきていると感じています。