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「妻と過ごした最期のとき」大切なあの人に聞けばよかった 話せばよかった

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サライ.jp

妻を見ていて、「いつまで一緒にいられるのかな?」と感じることがある。とはいえ気恥ずかしさもあるので、気持ちを伝える機会は決して多いとはいえない。同じような方は、決して少なくないのではないだろうか? しかし配偶者であれ両親であれ、祖父母、兄弟、果ては友人、先輩、後輩、同僚であれ、周囲にいる人たちとの別れは必ず訪れるものだ。 なのに、その人が存在すること自体が、いつしか当たり前になってはいないか? その結果、その人から大事なことを聞く機会、伝える機会を永遠に逃してしまいはしていないか? 『大切なあの人に聞けばよかった 話せばよかった』(聞こう話そう委員会 編、まる出版)の企画の根底には、そんな思いがあるのだという。 そこで、まる出版では「聞こう話そう委員会」を設立し、自分たちにつながりのある113人の方に、 「あなたにとって二度と会えない大切な方は誰ですか? その方に対して、今思えば「聞けばよかった」「話せばよかった」「してあげればよかった」と感じていらっしゃることはありますか? その後悔をもとにアドバイスをいただけませんか?」 とお願いし、匿名でご執筆(一部の方は委員会が聞き書きで原稿を作成)いただきました。 (本書「はじめに」より引用) 執筆者の体験した“後悔に基づくアドバイス”を共有することで、私たちの身近な人間関係にもよりよい変化が起こるのではないかということだ。 今回はPART 1「『~すればよかった』 113人からの体験的アドバイス」のなかから、70歳の男性による「妻と過ごした最期のとき」を見てみたい。 * * * 本稿の筆者が結婚したのは、会社勤め4年目の26歳のとき。40歳を過ぎてからは毎年、夫婦揃って人間ドックを受診していたにもかかわらず、49歳のときに妻が卵巣癌を発症。その時点でステージ4だったという。 夫婦で話し合って治療方針を決めたが、筆者は癌だと分かった時点で最悪の状態を覚悟していた。そして子どもがいなかったこともあり、金銭は度外視して「やれるだけのことはやろう」「最後は会社を休んで一緒に過ごそう」ということだけは決めていたそうだ。 結果的には、2度手術をしたものの、転移もあったため約2年で他界。51歳10カ月の生涯だった。 印象深いのは、ホスピスで過ごした2カ月についての記述だ。「最期は本人が楽なように」との考えから筆者は会社を休職し、個室のホスピスにほぼ毎日泊まり込んだ。そこで過ごしたのは、二人だけの濃厚な時間だった。 お互いに一体感を持って話ができ、奥様も「こんなに身近に感じられたことがない」と話していたという。筆者は、そのときに得た教訓が2つあると記している。 一つが、「死に様」というのは、まさにその人の「生き様」そのものということ。死と向かい合った時はごまかしが効かないので、過去どう過ごしてきたか、がそのまま出るのです。もう一つ、やろうと思ったことができるのは、その時しかないということ。物事がいつでもできると思うのは間違い。先送りすることはそれ以来やめました。結果、行動が早くなります。(本書124ページより引用) 死に際はきれいで、ベッドに座りスーッと消えるように息を引き取った。その印象は、「本当になにもなくなった」というもので、できる限りのことはやったと思っているため悔いもないそうだ。 葬儀の際には神主さんから「祝詞をあげるので本人のことがわかるものを書いてほしい」と言われ、ベースとなる年表をつくった。 同時に自分の年表もつくってみた結果、10年単位での自分のテーマが見えてきたという。そして行き着いたのは、限られた時間でできることは役割を全うすることだけなのだという実感だ。 その役割は好むと好まざるとに関わらず降ってくるもので、「もともと自分というものがあると思うのが錯覚だと感じる」と筆者はいう。 振り返ると、人は再現なく過去の思い出にのめり込んでいってしまうものです。生活の周りにあるものには、すべて過去の記憶が結びついています。そして思い出には様々な感情がまとわりついています。亡くなってすぐに車も買い替え、環境も変えました。それでも自然と涙は流れるものです。仕事があって外に出ていることが多いのは救いです。そして、過去は振り返らないことに決めました。今、できる限りのことをやるだけ。結果どうなるかも実はわからない。それがわかった上で、今に全力投球以外、実は選択の余地はない。これは覚悟です。(本書126ページより引用) 「それでも自然と涙は流れるものです」ということばが重みを感じさせるのは、大袈裟な表現は用いず、あったこと、感じたことを淡々と綴っているからだろう。だからなおさら、いつか訪れる配偶者との別れのとき、自分はどう感じ、どう克服しようとするのだろうかと考えさせられもする。 * * * 先述したように本書に描かれているのは、配偶者のみならず、両親、祖父母、兄弟、友人知人など、さまざまな人との別れの風景だ。これはその一例にすぎないが、いずれにしても本書は、なかなか実感する機会のない、しかし大切なことについて考えるきっかけを与えてくれるだろう。 『大切なあの人に聞けばよかった 話せばよかった』 聞こう話そう委員会 編 発行:まる出版 発売:サンクチュアリ出版  1,000円+税  2020年5月発行 文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)などがある。新刊は『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)。2020年6月、「日本一ネット」から「書籍執筆数日本一」と認定される。

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