桜井和寿とGAKU-MC、この時代にこそ響くパワフルな歌とステージ ウカスカジー『アディショナルタイム』ツアー東京公演レポ
Mr.Childrenの桜井和寿とラッパーのGAKU-MCによる音楽ユニット、ウカスカジー。本稿では、1月12日に開催された『ウカスカジー TOUR 2021-22 アディショナルタイム』東京国際フォーラム公演を、ウカスカジーからのお土産ーー筋肉痛と掌の痛みを味わいつつレポートする。 【写真】肩を寄せ合い歌う桜井和寿とGAKU-MC 「さあ始めようか東京!」「準備はいいかい?」とアミーゴ(ファン)を煽り、「コエノチカラ」でライブがスタート。2人はステージを縦横無尽に駆け回る。曲中、桜井は二度吠えた。それはまさに「コエノチカラ」。全身が痺れるような感覚を覚える。 感染予防対策を徹底して行われた本公演。桜井のボーカルにも、GAKU-MCの煽りにも、アミーゴは声を返すことができない。桜井が「手拍子ちょうだい」と優しく、けれどどこか挑発的に呼びかけると、一斉にクラップが鳴り響いた。 「こんな時だからこそこの曲を! 拳ちょうだい!」と、続くは「We are not afraid」。会場に集まった5000人のチームメイトが、力強く握った拳を高々と掲げ、手を鳴らし、ジャンプする。〈支え合っていくんだ ひとりきりじゃない〉。こんな時代に、音楽で、ここにいるみんなで抵抗してやろうとでもいうような、パワフルなステージだ。 「世界に誇る日本の宝! 桜井和寿!」 「ラップで世界をプラスの方向に! GAKU-MC!」 おなじみのフレーズで互いを紹介したあと、声を出せないコーラスアミーゴもといクラップアミーゴ(いずれもファンのこと)のもどかしさを慮り、桜井が語りかけた。「皆さんが飲み込んだ歌、声は、我々バンドアミーゴが音にします」。2人は「こんな(全員がマスクをした)ライブ、一生に一度か二度しかない」と、チャンスだと思って楽しもうとまでいうのだ。そうして、ファンを一気にバンドメンバーにしてしまう。間違いなくこの日、会場全体がワンチームだった。 ウカスカジーのライブに初めて参加するアミーゴとの出会いを祝し、続くは「Anniversary」。サビのライムが心地よい、優しい曲だ。ライトが会場を虹色に照らし、GAKU-MCの動きに乗って皆が身体を揺らす。 かつて漫画家・手塚治虫が想像した世界ーークローンやAI技術が、現実になっているという話から、「イメージできることは、現実にできる」と、想いを伝えた桜井。皆に目を閉じるよう言うと、ギターを抱え、優しい歌を歌い始めた。 晴れ渡った空の下、そばには愛する人、その口元にマスクはないーー。桜井の歌声に乗せて、ほんのひととき見た世界。続く「サンシャインエブリデイ」もイメージの歌だと、優しく歌った。「イメージできることは、現実にできる」、改めてその言葉の意味を考える。 「青春 FOREVER」「DOWN TOWN」「PLEASE SUMMER BREEZE」と続く3曲は、それなりに長い時間を生きてきた大人にとってのリアルであり、エールだった。サウンドはむしろ清々しく、瑞々しくさえあるのだが、歌詞がぐっと胸を刺す。しかしそのあとには必ず、背中を押す言葉がある。ともに現実からエスケープするような時間、それがウカスカジーのライブの醍醐味でもある。 重厚なバンドサウンドが身体の芯まで響く「言葉」「雪物語」のあとには、GAKU-MCのソロ「それでも日々は続く」。MCにも、コロナを受けて付け足したという歌詞にも、彼の優しさがあふれていた。自身もミュージシャンとして多大なダメージを受けながら、彼はどこまでも他者を思いやる。平日のライブに来てくれたこと、そのために協力してくれた家族や同僚のことにまで、想いを馳せる人なのだ。 桜井は、岡崎体育の「エクレア」をカバー。歌う前に話していたなかで「いつか来るその日のために」という言葉が印象的だった。桜井は「その日」を誰よりも諦めていないし、イメージし続けている。〈いい曲はいい人と共に〉ーーこういうことかと、会場をぐるりと見渡してみた。 ごきげんに歌い踊ったナンバー「HAPPY HOUR」、続く「上を向いて歩こう」では、2人のアプローチの違いが面白い。ひたすらにまっすぐなGAKU-MCの陽の声、パワフルだが、憂いをまとった桜井の声、まるで違うはずなのに重なり合う。きっと2人の想いと本質が、優しさとポジティブが「同じ」なのだろう。1曲ごとに深々と頭を下げる、2人のスポーツマンシップも清々しい。 「時代」「春の歌」では演出も最低限に、じっくりと音楽を、声を聴かせる。本編ラスト「mi-chi」では、またも桜井が吠えた。その声量と迫力に、拍手が巻き起こった。 ここからライブが始まるのではと錯覚するほど、パワフルなアンコール。「手を出すな!」「勝利の笑みを 君と ~日本サッカーのために~」と、ハイテンションなアンセムに会場が揺れる。桜井とGAKU-MCも、肩を組んでジャンプした。 「また会う日まで」のあとには「優しさで出来てます! 桜井和寿」「サービス精神で出来てます! GAKU-MC」と、またも互いを紹介し合う。桜井はGAKU-MCに歌っているときに彼を見ると楽しいと、「ははっ」と目を細めた。 『どんなことでも起こりうる』。2021年12月リリースの、ウカスカジー最新アルバムのタイトルだ。ダブルアンコールに登場した桜井は、同作収録曲を歌いながら「首をかしげるところがあった」と明かした。ツアーを開催するころにはコロナが収束しているつもりで作った作品だといい「完全に先走っちゃった」「前のめっちゃってる」と、2人で笑った。 次に会うときはきっとマスクを外していると、「それまでの約束の曲として」最後に選んだのは「Let's get together ~ウカスカクラスター~」。歌い出しから、そこはもう明るい未来。ハッピーを感染させる、ウカスカジーらしさ全開の楽曲だ。 「どんなことでも起こりうる」、それは悪いことばかりではなく、良いことだってそうだと、2人は繰り返す。2022年、ウカスカジーは確信している。夢見るのではなく、確かにやってくる明るい未来を信じている。 「また始めようね」。そう締めくくったウカスカジー。次回ツアーの1曲目、皆がマスクを外し、肩を組み、大きな声でともに歌うーーそんな光景をイメージした。だからきっと、現実にできる。その日までのパワーと、未来への希望をくれた時間だった。
新 亜希子