水利施設の半数老朽化 水門は7割 管理省力が課題
基幹的な農業水利施設の老朽化が進み、約7500カ所ある施設の53%で耐用年数を超過していることが、農水省の調査で分かった。10年間で11ポイント上昇し、用排水機場や水門は7割以上が耐用年数を超えている。同省は施設の長寿命化を進めるが、維持管理には土地改良区の体制強化や新技術の活用が欠かせない。 農業の用排水に使われる施設で、受益面積が100ヘクタール以上の基幹的な施設を対象に調査。対象数は2018年3月時点で7582カ所に上る。同省は標準的な耐用年数として、ダムやため池などの貯水池は80年、取水堰(ぜき)が50年、水門が30年、用排水機場が20年、施設の操作機能などを持つ管理設備は10年と定めている。 標準耐用年数が超過している施設は合計で4033カ所に上った。 種類別に見ると、用排水機場は全体の75%に当たる2208カ所で標準耐用年数を超過。耐用年数を超えた施設の割合は10年で12ポイント上昇した。水門なども71%(789カ所)が超過し、割合も同18ポイント増加。貯水池は10%(126カ所)が超過し同1ポイント増えた。 同省は「標準耐用年数を超過しても、ただちに問題になるわけではない」(設計課)と指摘する。一方で施設の老朽化に伴い、経年劣化などによる漏水などの事故は増加傾向。18年度は1109件発生した。 基幹的な農業水利施設は国や都道府県が建設する。同省の試算によると、耐用年数を超過した施設を再建設費ベースで見ると5兆円に達し、今後10年で約8兆円に増える。更新には多額の費用がかかることから、同省は適切な維持管理による施設の長寿命化を重視する。 ただ、多くの地域で施設の維持管理を担う土地改良区は高齢化が進む。組合員数も約350万人(19年度)と、10年で8%減った。施設の維持管理に支障が出る可能性もあり、土地改良区の体制強化が不可欠だ。農水省は効率的な施設の機能診断に向けて、小型無人飛行機(ドローン)を使って写真を撮り人工知能(AI)で診断するなど新技術の活用を目指す。今年度から現地実証を始め、施設を維持管理する際の省力化につなげたい考えだ。
日本農業新聞