年間9068件の安楽死が行われた国の「人生の最期」 耐え難い苦痛の回避か、自然な形か 安楽死「先駆」の国オランダ(4)
ヘルマンはカトリック信仰の深い家庭で育った。元来、カトリックは安楽死を認めていないが、心疾患の母が3度の蘇生・延命処置で苦しむ様子を間近で目にしたことを契機に、約40年前に推進団体「オランダ自発的安楽死協会(NVVE)」の会員になった。「神を否定しないが、生きていくうちに考えが変わることもある」
一方、安楽死に肯定的な夫の考えに理解を示す妻のエルス(72)は、8年前に自身の父も安楽死した。ただ、「私は自然な形で死を迎えたい」と語る。
たとえ夫婦であっても、それぞれ明確な意志がある。「オランダ人は思っていることを素直に話す国民性。大事なのは、自分の最期についても日ごろから家族と話すことだ」とヘルマン。相違を受け入れ、尊重し合う絆がある。
ただ、不安は妻の心を揺さぶる。「夫との関係性は昔とは変わった。今の私は彼の妻であり、介護者でもある。彼が亡くなったら喪失感は大きいだろうが、もし私が先に逝くことになったら…」。エルスは複雑な思いを抱えながら、ともに老いゆく今を見つめている。=敬称略(池田祥子、小川恵理子)