2年で株価1.8倍。「工具界のAmazon」モノタロウ、快進撃を支える“自動倉庫”のつくりかた
「工具業界のアマゾン」とも呼ばれ、製造業向け工具販売による売上が約1900億円(2021年12月期時点)の事業規模に成長しているモノタロウ(MonotaRO)。時価総額は1.2兆円(4月22日時点)、この2年で株価が1.8倍(2020年3月2日と2022年3月1日、終値ベースの比較)になるなど快進撃を続けている。 【全画像をみる】2年で株価1.8倍。「工具界のAmazon」モノタロウ、快進撃を支える“自動倉庫”のつくりかた 中小企業や建設の「現場」を支えるニッチなECというイメージの一方、IT業界においては、徹底的なデジタル化やデータ経営で効率化を進める企業としても知られている。 4月20日からは、新たな物流倉庫「猪名川ディストリビューションセンター」(兵庫県)も開設し、自動化と、長年培った情報システムによる連携を強みに、拡大を続けている。 1800万点を越える膨大な商品の取り扱いや、業界最大規模をうたう当日出荷体制はどのように実現されているのか。 その裏側を支える「物流テックとしてのモノタロウ」の姿を取材から探った。
モノタロウを支える物流ITはどうやってできたか
「物流センター」というとダンボールやコンテナが並び、作業員やフォークリフトがせわしなく動き回るイメージをお持ちではないだろうか。 自動化が進んでいる物流倉庫では、作業員は目の前に運ばれた箱から目的の商品を受け取るだけで済む。モノタロウも例外ではなく、自動化された物流センターを運営している。しかし、もちろん当初からそうした「ハイテク物流」で動いていたわけではなかった。 モノタロウの幹部の1人はこう語る。 「私が入社した2014年時点では、紙に印刷されたピッキングリストを持って人間が台車で商品を運びながら、手で梱包していました。尼崎物流センターに異動後、ピッキングリストが紙からタブレットに変わり、一部に自動倉庫と自動梱包機が導入されています。2015年からは関東の物流センター開設のために奔走しながら、無人搬送ロボットと自動梱包機の導入を進めてきました。入社から7~8年かけて、進化した経緯があります」(執行役 物流管掌 物流部門長 吉野宏樹さん) 吉野さんは、「何を自動化するべきかの見極めが重要」「物流倉庫の業務を自動化するロボットや自動棚においては、各メーカー様で機能としては大きな違いや優位性はない」と断言する。 重要なのは、個別の技術や製品を組み合わせて、「いかに最適な形で使いこなせるか」だ。 最適な形で使いこなす具体例の1つに、倉庫で走り回るロボット導入がある。 倉庫業務の自動化の1つには、「コンテナを作業員の前に自動搬送する」方式がある。この方式では生産性は最も高いものの、2015年の検討当時は投資規模が大きく、設備トラブルによる影響範囲が大きかった。 そこでもう1つの方法として、「小型無人搬送ロボットが作業員の前まで搬送する」方式を選んだ。従来の人間が商品棚まで移動する方法よりも生産性は3倍で、投資も一定に抑えられる。また、トラブルによる影響も比較的軽微だからだ。 吉野さんは倉庫の自動化において、どこか一部を高効率にするのではなく、「ボトルネックの解消と作業能力の均等化」がとりわけ重要だと考えている。 「全体の作業能力を増やすためには、ピッキングを自動化するだけでなく、前後にある工程も同様に効率化しなければなりません。商品の入荷から在庫保管があり、ピッキングの後には梱包を行います。そこで作業工程でバランスよく処理できる設備を構築しなければ意味がないからです」 倉庫の効率化は奥が深い。一部だけを速くしても意味がなかったり、作業の一部を人が担う以上、人の動きを念頭に入れた設計が必要だ。 「例えばピッキングの速度を改善する場合、1人ならばらつきは少ないですが、100人ならばらつきも大きくなります。そこでロボットによる自動化であれば、ばらつきが少なくなります。 次にやるべきは全体の処理量をどれだけ増やせるかですが、自動化すれば1時間で100の処理量が120に増えるとは限りません。商品を載せたベルトコンベアの速度を上げれば、処理量が上がるように思えます。しかし、(例えば)分速100mでは人間が商品を取れないので、意味がありません。 そこで自動化させるだけでなく、スループット(実質的に通過できる荷物の量)の最大化を重要視しています」 モノタロウの考え方として、ビジネス上の改善のポイントは、売上高に対する「物流費」の比率を下げることだと、吉野さんは言う。物流費は運送費・人件費・設備投資の減価償却費・家賃などで構成される。 「運賃であれば距離と荷物のサイズで単価は決まっているため、コントロールできるのは一定の範囲に留まります。しかし人件費として作業にかかる手間は、大きな改善の余地があります」 人件費の改善は、効率化によって実現する、という考え方だ。 「例えば商品をピッキングする工程の作業時間は物流センターの作業時間全体の約3割程度を占めています。さらに作業者の動きを分析すると、1日の大半を“移動”に費やしています。(商品のサイズがさまざまのため)ピッキングをロボットで完全に自動化させることは現時点では難しいと感じています。そこで物流センターでの作業時間を工程ごと、作業単位ごとに分解して、どの工数に時間がかかっているかを計測します。ピッキングなら歩く時間、梱包ならダンボールの高さを調整するための作業、商品の大きさに合わせてダンボールを作る作業などがあるので、そこで何かを探したり移動するなどを省く自動化に投資しました。こうして(分析的に)効率化を進めていくことが、我々のアプローチとなります」(吉野さん)