大宮だけじゃない、Jクラブ買収「マルチオーナーシップ」の大問題(3)名将クロップが「責任者」に、ファミリー大宮の「目標」とレッドブル「真の狙い」
■Jリーグの大きな「カンフル剤」に
こうした問題はあるものの、「マルチオーナーシップ」は、国内からの新たな投資を一部IT企業に頼らざるをえない状況にあるJリーグにとっては、大きなカンフル剤になる可能性を秘めている。 この10月、レッドブル・グループは、2025年1月からグループの「グローバルサッカー部門」の責任者にユルゲン・クロップが就任すると発表した。ドイツ人のクロップは、ボルシア・ドルトムントを率いてブンデスリーガに旋風を起こし、プレミアリーグのリバプールでも一時代を築き、今年5月、56歳の「若さ」で監督業から身を引いた。 レッドブルとRBライプツィヒはドイツ国内では嫌う人が多いようだが(「成り上がり」のクラブが嫌われるのは、洋の東西を問わず同じようだ)、日本でも信奉者が多いクロップがサッカー部門のトップに就いたことは、新しく「レッドブル・ファミリー」の一員となった大宮アルディージャにとっては歓迎すべきニュースに違いない。 横浜F・マリノスでは、シティ・グループは株式の一部しか持っておらず、全面的にその影響下にあるわけではない。しかしそれでも、シティ・グループの指導下でポステコグルーという監督を持ち、チームは「革命」と言っても過言でないような変わり方を見せた。 大宮はレッドブル・グループが100パーセント所有するクラブであり、この後どのようにもクラブを変えることができる。レッドブルの「テクニカルダイレクター」であるマリオ・ゴメス(元ドイツ代表FW)は、「大宮の歴史と伝統を尊重する」としながらも、自分たちのネットワークとノウハウを生かし、3年から4年をかけてJ1に昇格し、2030年にはタイトルを争い、AFCチャンピオンズリーグに出場することを目指すと語る。
■日本サッカーが「激変する」可能性
J1でも現在の平均的な経営規模が年間50億円のJリーグ。500億円から1000億円という欧州のトップクラブに比するべきもない。大宮が現在、使用しているスタジアムも収容約1万5000人という小さなものである。レッドブルの狙いが大宮アルディージャの経営によって利益を上げようというものでないのは間違いない。レッドブル側としては、エネジードリンクの「日本市場」の強化とともに、近年急速に力をつけ、欧州に数多くのタレントを送り出している日本での育成活動によるアドバンテージを狙っているのではないか。 そのプランに乗って大宮アルディージャが躍進し、そこから選手が次々と欧州に出ていって日本代表でも活躍するようになれば、Jリーグの他のクラブも安閑としてはいられなくなるだろう。 何らかの「マルチオーナーシップ」に身を寄せて閉塞感を打開しようというクラブが次々と出てくる可能性は少なくない。 21世紀の世界のサッカーは、20世紀とはまったく違う世界になっている。レッドブルの参画によって、大宮アルディージャが、そしてJリーグがどう変わるか。注意深く見守っていかなければならない。
大住良之
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