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海自輸送艦「おおすみ」衝突事故、国の主張揺るがす証拠発覚

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週刊金曜日

 事故の真相は輸送艦の「あおり航行」ではなかったか――。2人の死者を出した海上自衛隊輸送艦「おおすみ」(8900トン)と釣り舟「とびうお」(5トン未満)の衝突事故(2014年1月15日、広島県沖の瀬戸内海で発生)から6年あまり。自衛隊を免罪した政府や海自の調査結果を揺るがす証拠が発覚した。  海上保安庁の捜査記録に綴られていた「おおすみ」艦橋の会話記録が、遺族が起こした国家賠償請求訴訟の中で検察庁から開示された。そこに衝突3~4分前のものとして、こんなやりとりがある。 〈左通ったほうがいいでしょ〉 〈動静見ながら…〉  南南西に向け航行していた「とびうお」の後方から「おおすみ」は真南の進路で追いかけていた。この状況で「左通ったほうがいいでしょ」とは、常識的に見れば「とびうお」を先に行かせたほうがいいとの助言である。危険を感じたからだろう。つまり追い越して右側に出ようとしていた証拠である。そして、この助言にもかかわらず「おおすみ」は「動静見ながら」接近を続けた。  国が一貫して主張してきた事故の状況は次のようなものだ。 《追い越しはしていない。衝突約1分前まで危険はなかった。約60メートルの間隔で安全に交差できた(「とびうお」右後方の「おおすみ」が左後方に抜ける)。ところが「とびうお」が右に急に舵を切ったため衝突した》(趣旨)  釣り船が直前に右転をして自分から衝突したという。国土交通省運輸安全委員会と海上自衛隊の調査結果も同様だ。しかし「とびうお」右転を裏づける有力な証拠はない。「右転などしていない。理由もない」と生存者らも異を唱えてきた。前述の会話は国が唱える右転説の矛盾をくっきりと浮き彫りにした。 【衝突約1分前「怖いよな」】  ほかにも興味深いやりとりがある。たとえば衝突約1分前のものだ。 〈もう前を行けると思ってるんだろな、怖いよな〉(※) 〈向こうは怖くないんかな〉 〈怖くないんでしょうね〉 〈いつでもよけれると…〉  従来明らかにされていたのは最初(※)の発言だけだった。不自然だとの指摘があった。  国によれば、まだ「とびうお」の右転はなく危険のない時点での発言だ。追い越しも「していない」。それなのに「もう前を行けると思ってるんだろな、怖いよな」とは文脈がつながらない。 《このままの状態であっても「とびうお」が「おおすみ」の前方を通過することができるものの、「とびうお」が周囲の状況を顧みずに航行しているようにも感じられたことから、その行動を「怖い」と表現したものであり、衝突の危険が差し迫っていることを表現したものではない》(国の答弁書より)  苦しい釈明だが、後に続くやりとりがわかったため違和感は解消した。「とびうお」が自分からよけると過信したまま接近を続けた。だがよけない。だから「怖い」という言葉になって出たのだろう。  午前7時55分ごろから事故の起きる同8時まで「おおすみ」はレーダー画面から「とびうお」を見失っている。目視頼みの航行。見張り員に「こちらを視認しているか」と指示し、視認しているとの回答を得た。しかし汽笛を鳴らして確かめたわけではない。  衝突直後、乗員が「視認」に不安を覚える様子も記録されている。 〈こっち見とったんやないかな〉 〈むこう見とったです〉 〈見とったでしょ〉  主要な事故責任が「おおすみ」にあることは決定的ではないか。無謀な追い越しをかけて異常接近、衝突した疑いは限りなく濃い。  事故翌日の14年1月16日、『読売新聞』朝刊は、輸送艦の左後ろから釣り船が近づいたとする政府高官の話を報じた。『中国新聞』も同年2月14日朝刊で「釣り舟、左後方から衝突か/航跡ほぼ特定」と断定的に報じた。いずれも事実は逆で完全な誤報だ。情報操作が疑われる。7月7日から広島地裁で証人尋問がはじまった。事件の闇は照らされるのか。 (三宅勝久・ジャーナリスト、2020年7月10日号)

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