トランプ再選は米国経済・金融市場が抱える問題を増幅:ドル高・円安が緩やかに修正されるのであれば日本経済にプラスだが。。。
トランプ前政権時と現在とでは経済・金融情勢は大きく異なる
さらに、トランプ前政権時には、極端な保護主義的な政策がとられたものの、米国及び世界経済は深刻な悪化を免れた。また、トランプ氏はFRBへの緩和要請を強めつつドル安志向を明言したが、実際にはドルは大きく下落しなかった。 恐らくこうした経験を踏まえて、トランプが再選しても、経済、金融には大きな影響をもたらさないという楽観論が金融市場に広まっているのではないか。いわば「トランプ慣れ」したのである。 しかし、留意しておきたいのは、トランプ前政権時と現在とでは、米国経済及び世界経済と金融情勢は大きく異なるという点だ。第1に、バイデン政権になってから、物価は大きく上昇し、それを受けてFRBは大幅な利上げを行った。米国経済は金融引き締めの影響を受けて既に脆弱であり、この先大きく減速する可能性がある。この点から、保護主義的な政策が米国経済を悪化させるリスクは、現在の方が高いのである。また、当時と比べて中国経済の減速が強まっていることも、保護主義的な政策が世界経済を悪化させるリスクを高めるだろう。 第2に、財政面で積極的なコロナ対策を行った結果、現在の財政環境はトランプ前政権時よりも悪化しており、また金融市場は財政環境の悪化をより警戒するようになっている。そのもとで財政拡張的な政策がとられれば、金利上昇あるいは金利高止まりが経済を悪化させるだろう。また、財政の悪化は通貨の信認を損ねることから、ドル安のリスクも高める。
ドルは歴史的な高水準でこの先は大幅下落のリスクもある
第3に、FRBの大幅利上げによって、現在のドルの水準は、トランプ前政権時よりもかなり高くなった。実質実効ドル指数は、2022年10月には、1985年2月のプラザ合意前の歴史的ドル高水準に3%程度にまで迫った(図表)。大幅に高くなったドルは、経済、金融環境の変化や為替政策の変化によって、急速に下落するリスクも高まっている可能性がある。 以上の点から、トランプ再選時の経済、金融への影響を、トランプ前政権時の経験に基づいて予想するのはリスクがある。米国経済、金融が抱える問題は当時と比べてより大きくなっているのである。 それらの問題が顕在化していく中、トランプ再選後の経済政策、いわゆる「トランポノミクス2.0」は、それらを増幅する役割を果たすだろう。トランプ再選がもたらす経済や通貨への悪影響が非常に大きなものになるのか、そこまでには至らないのかは、大幅利上げを受けた今後の米国経済のパフォーマンスに大きく依存するだろう。 ただしその点も含めて、経済悪化のリスクは比較的高く、金融市場での株安、ドル安リスクを相応に高めるものと見ておきたい。