「宙わたる教室」で注目の小林虎之介「たくさん良い作品に巡り会えた本当にありがたいことばかりの1年」
ドラマ10「宙(そら)わたる教室」(毎週火曜夜10:00-10:45、NHK総合ほか)が12月10日(火)に最終回を迎える。定時制高校を舞台に、理科教師・藤竹叶(窪田正孝)と、さまざまな事情を抱える生徒たちの挑戦を描き、毎話視聴者の心を揺さぶってきた本作。第1話から主要な生徒として登場し、その演技で注目を集めているのが、柳田岳人を演じる小林虎之介だ。そんな小林に、本作最終回の見どころや俳優としての抱負などを聞いた。 【写真】上目がちな表情がかわいらしい小林虎之介 ■実話に着想を得た感動小説をドラマ化 「宙わたる教室」は、窪田正孝を主演に迎え、実話に着想を得たという同名小説をドラマ化した作品だ。舞台は新宿の定時制高校。小林虎之介演じる柳田岳人は、負のスパイラルから抜け出せず、不良として日々を送る生徒だった。新たに赴任した理科教師の藤竹に導かれながら、困難に立ち向かっていく多様なバックグラウンドを持つ生徒たち。そして、彼らは教室に「火星のクレーター」を再現する実験で学会発表を目指すのだった。 ■小林虎之介「”100%のヤンキーじゃないのが良かった”と褒められた」 ――「宙わたる教室」が好評です。ドラマの反響はどのように感じていますか? みんなでいいものを作ろうと思って現場で話し合って、本当にこだわって作ったので、シンプルにうれしいですね。 ――どのようなところにこだわったのでしょう? 監督との話し合いは特にしっかりしました。主演の窪田(正孝)さんが常にリアルさを求めて、監督と「どうやったら自然か」ということを話されていて。その姿を見て、僕も「これはちょっと不自然かも」と思うものは監督と相談させてもらっていました。今年1年いろいろな作品に出させてもらって、テレビで自分の芝居を見たら「不自然だったな」と思う芝居もあって。監督もできるだけ話し合いたいという感じだったので、僕も窪田さん同様、いろいろと相談させてもらっていました。 ――柳田岳人という人物を演じたことで、ご自身には何か影響はありますか? 僕は、撮影期間中は役が入ってしまうタイプなので、岳人が入って、ちょっと気が強くなっていたと思います(笑)。 ――ただ、岳人は気が強いだけじゃないですよね。周りへの当たりが強くなってしまう裏には、その理由がある。 はい。演じる上で、そこがうまく表現できなかったらただのチンピラに見えちゃうなと思ったので、その背景をどう見せるかというのは考えながら役作りをしていました。 ――演じるのは難しかったですか? 難しかったですね。僕自身がオラオラしているタイプではないので、まずそこを見せるのが難しかった。ただ、岳人を演じる上では、正直ヤンキーに見せなくても良かったんですよね。岳人は発達性ディスレクシアという学習障害を持っていて、周りの人とうまく付き合うために強がらないといけなくなってしまっただけで、根っこは純粋な子なので。撮影が終わってから、窪田さんにも「100%のヤンキーじゃなかったのが良かった」と言われて。安心しました。 ■いい作品のために必要な空気作りを学んだ ――今、窪田さんのお話が出ましたが、共演者の方からはどのようなことを学びましたか? 学んだことはめちゃくちゃたくさんありますけど、一番は“いい作品を作るためには、空気作りが大事なんだな”ということ。ドラマって、撮影が佳境になってくると、どうしてもみんな疲れがたまってきます。でも全員が「俺たちはいいものを作るんだ」という気持ちを持って、現場に来ることが楽しいという空気作りをしていれば、みんなの集中力は自然と上がってくる。窪田さんも、イッセー(尾形)さんも、田中(哲司)さんや(伊東)蒼ちゃんも、みんなそれがうまかったです。 ――具体的に皆さんのどのような行動や言動が、現場の士気を上げていたと感じましたか? 笑顔ですね。撮影が詰まってくると、笑う余裕もなくなってくるのですが、窪田さんは本当によく笑うんですよ。でも本番が始まるとパッと切り替えて、そのシーンを仕留めに行く。 ――仕留めに行く? はい。できるだけ一発で終わらせるように。テークを重ねると集中力が下がってしまうので。そういうところもプロだなと思いました。そういう経験は自分も今後の現場で生かしていきたいなと思いました。 ■現場が感動に包まれたクライマックスシーン ――ドラマの最終回がもう間もなく放送となります。最終回に向けての見どころを教えてください。 見どころはやっぱり学会発表。科学部はこの発表に向けて頑張ってきたので。ドラマとしても集大成ですし、エキストラの方も300人くらい迎えて、実際にホールで発表したので、その緊張感も出ていると思います。と言っても、まだ完成版を見ていないので、どうなっているかはわからないんですが。 でも、学会発表の撮影で1つ印象的な出来事があって。エキストラの方を入れて撮った学会発表は、タイミング的にドラマの1話が放送されたくらいの時期だったんです。だから集まったエキストラの方は、ストーリーもあまり分かっていないはず。なのに、学会発表のシーンで感動して泣いている方がいらっしゃったそうなんです。それには監督もびっくりしていました。なかなかない光景だって。それくらい気持ちのこもった、いい回になっているんじゃないかな。 ――その学会発表自体が感動的だったということですもんね。 そうなんですよ。僕も台本を読んだ段階では、そんな感動するシーンになるとは思っていなかった。だけど実際にやってみたら、全然違うシーンになってすごく感動しました。実際の仕上がりはまだ分からないですけど…。 ――岳人としての見どころはありますか? 最後のシーンかな。岳人が藤竹(窪田)と出会った大きさを感じるシーンになっていると思います。カットされていなければ、ですけど(笑)。 ――まだ、見ていないんですもんね。 はい。 ――小林さんにとって、「宙わたる教室」という作品との出合いはどのようなものでしたか? 間違いなく俳優というキャリアの中で、すごく大事な作品になったと思います。共演者もテレビで見て尊敬していた方ばかりで。皆さんどんな芝居をされるんだろうと思ってしっかり見て学ばせていただいて、また皆さんと一緒に作品作りがしたいと思いましたし、そのために自分のレベルも上げていきたいなと思いました。 ――ちなみに、科学に興味が湧いたりは? ちょっとだけ。だって、難しいんですもん(笑)。でもプライベートで空や星を見るようにはなりました。たまに火星も見つけますよ。 ■「たまたま」できる良い芝居を作るのが仕事 ――では、12月なので、今年の振り返りも聞かせてください。今年は小林さんの知名度を押し上げた「下剋上球児」(2023年、TBS系)を終えてからの1年でした。どんな1年だった、と思われますか? 本当にありがたいことばかりの1年でした。たくさん良い作品に巡り会えて、その作品をたくさんの方が見てくれて、僕のことを応援してくれる人も増えて。「下剋上球児」という作品が大きかったぶん、その後の仕事が大事になってくるだろうなという気持ちがあったのですが、そういう中でこういう1年が送れて、本当に感謝しかないです。 ――「ひだまりが聴こえる」(2024年、テレ東系)ではテレビドラマ初主演を務めましたが、初主演はいかがでしたか? めっちゃ大変でした。主演の人の大変さがよく分かりましたね。最初の方は、それこそ現場の空気作りなども意識していましたけど、だんだん疲れもたまってきて、そういうことにも気を配れなくなって。でも作品の質は落としたくなかったので、ギリギリの中で駆け抜けたなと思います。今まで出演した作品の中で、一番台本がボロボロになったのはひだまりでしたね。でも大変さを知ったということは、俳優として大切なことだったと思っています。それに、自分の未熟さを知ることができたのも大きい。大変でしたけど、「嫌だった」とか「思い出したくもない」とかそういうことではもちろんないです。もっと忙しくなれば、こんな1年が続く人もいるんだろうし、僕もそうでありたいなと思いました。「下剋上球児」の半年後に、この経験ができたことは本当に良かったなと思います。 ――主演作を含めて、出演作品が途切れませんが、ご自身の中での手応えは? 手応えですか…うーん、分からないです。いい作品に出会って、たくさんの方が注目してくれることはすごくありがたいですが、そこでたまたまいい演技ができたとして、その次はさらにそのハードルを越えるお芝居をしなくちゃいけない。そのプレッシャーを超えられるようにこれからも頑張っていくだけです。 ――いい演技ができているのは「たまたま」という感覚なんですか? はい。本当にいい芝居は、いろいろなものが巡り合ってできるので、たまたまでしかないと思っています。そのたまたまを作る作業が大変なわけで。 ――「こうすればいいお芝居ができる」という方程式はないと。 はい。毎回同じお芝居も絶対にできないし。というか、そうやって作り上げるお芝居は、目指そうと思えばできますけど、僕はそういう芝居が面白いと思わない。もちろん、そういうものが必要な場面もあるし、やれと言われればやりますけど、僕自身はそういうお芝居にはあまり興味を感じないんです。だから、それを超えるお芝居をしたい。そうなると、たまたまでしかないんですよね。その偶然を引き当てるために、俳優の皆さんは準備をしているんだなと、この仕事をしていて思います。 ■“何かを作る”ことが好き ――ところで、「ひだまりが聴こえる」では大学生、「宙わたる教室」では定時制高校に通う役どころと、学生役が多いですが、小林さんご自身はどのような学生でしたか? シャイなんで、そんなに目立たない学生でしたよ。でも、学年の中心にいる人には好かれていたので、全体的に仲良くはしていました。それと、親が厳しかったので、最低限の勉強はしておこうかなという感じでした。あとはひたすら部活をしていました。 ――学生時代の将来の夢は? 確か、中学生の時は建築士になりたいと思っていました。「大改造!!劇的ビフォーアフター」(テレビ朝日系)を見て、面白そうだなって。だから最初は建築学科のある高校に行こうと思っていたんです。だけど、先生に止められて。「今からやらなくてもいいんじゃない? 高校を卒業して大学に行くタイミングで決めても間に合うことだから」って。言われたときは、「いや、高校から建築を学んでおいた方がいいじゃん」と思っていたんですけど、今思えば、僕のことを思ってのことだったなと感謝しています。実際、その夢は高校に入って速攻消えたんで(笑)。 ――高校では別の夢が? 高校の時は、とにかく大きなスタジアムで、たくさんの人に応援してもらう中で野球がやりたいと思っていた。将来的にということではなく、とにかく今、野球がやりたいって。だから高校を卒業してからは夢がなくなってつまらない人でした。 ――そして、お芝居に出会ってまた人生が豊かになったと。 はい。でも今思えば、“何かを作る”ということが好きなのかもしれないです。家を作るのもそうだし、今は作品を作っているし。 ――では最後に、2025年の抱負を教えてください。 来るもの拒まず、の1年にしたいです。もちろんスケジュールなどでできないものもあるかもしれないですけど、とりあえずは来たものを全部受けるくらいの勢いで、たくさん経験を積みたい。2025年も、頂いた役を全力で演じていけたらいいなと思っています。