【中村憲剛×小林有吾対談 後編】漫画でもサッカーでもどんな分野でも、一つ結果が出ても満足することなく継続して自分を伸ばしていくしかない
人生を変えてくれた愛媛FC。だからJリーグをバカにする人は許せない
中村 先生は地元のクラブ、愛媛FCのサポーターとしても知られています。『アオアシ』にはJリーグへの愛やリスペクトを感じますし、Jリーグでずっとプレーしてきた僕としてもうれしいんです。 小林 Jリーグは素晴らしいですよ。世界との差が広がっていると言う人とかいますけど、Jリーグをバカにするような人は許せない気持ちなんです。 中村 同感です。僕もJリーグ出身なのでその想いはずっとありますし、『アオアシ』を読んでいても、その想いをすごく感じます。 小林 僕がここまでサッカーを好きになったのは愛媛FCのおかげなんです。自宅から通える距離に生観戦できるプロサッカークラブがあるという環境ができて。それまで日本代表の試合をテレビで観るくらいだった自分がここまでのめり込むとは思いませんでした。 中村 なぜそこまでのめり込めたんですか? 小林 (生まれが)地元出身でスペインでもプレーした福田健二さんというメチャメチャ好きな選手が愛媛FCに来てくれたのがきっかけでした。選手推しになったら火がつくのはもう一瞬です(笑)。我が家には小学生の娘が2人いるんですけど、最初はスタジアムに連れていってもボーっと見ているだけでした。それがオーストラリア人のベン・ダンカンというイケメン選手と町で一緒になる機会があったときに、一瞬でファンになっちゃったみたいで。今では僕よりチームのこと詳しいです。 中村 お子さんまで愛媛FCのファンに! そうして世代がつながっていくのもJリーグの魅力だと思います。 小林 まずは選手推しになることで、一番ハマるのかもしれませんね。 中村 先生はこれまでトップチームのトレーニングウェアスポンサーやスタジアムのビッグバナーなどいろいろな形でバックアップもされています 小林 愛媛FCには先にたくさんの恩恵をいただいてきたので、僕からしたらせめてもの恩返しなんです。漫画が売れていないときは仕事もないので、本当に毎試合といっていいほどスタジアムで応援していましたから。 中村 「地域密着」というJリーグの理念が、『アオアシ』を生んだように捉えることもできます。 小林 Jリーグのクラブってあれだけ地域の人に愛されるというのは、世界を見渡してもなかなかないんじゃないですか。欧州ともまたちょっと違う文化なのかな、と。欧州は長い歴史と伝統があって自然と受け継がれてきていますが、Jリーグは(サッカー文化が)なかったところからわざわざつくって、30年という短期間で根づかせてきましたからね。そこは単純に評価してもらいたいなっていう思いがあります。 中村 先生の言うとおりです。Jリーグ自体の自己評価が低いのかなと。世界と比べるとっていう文脈になると、選手はどんどん海外に行ってしまうし、当事者はネガティブなほうを拾いがちです。もちろん伝統のある欧州や南米をリスペクトする気持ちは持っていますが、もうちょっと自分たちにも自信を持ってもいいんじゃないかって感じます。そうやって先生からJリーグが素晴らしいと発信してもらえるのは、本当にありがたいです。 小林 そもそもサッカーって結局はエンターテインメントなんだよなって思っているんです。選手、チーム、ファン・サポーター全部ひっくるめて。もっと自由があって、もっと遊びがあっていい。そう考えるとまだまだ硬いかもって個人的には感じています。例えば勝利至上主義になってしまうと、いろんなものが殺伐としてくるじゃないですか。エンターテインメントであるなら、そこを突き抜けていける。今はその過程にあるのかなって。 中村 そう、エンターテインメントだと思います。もちろん勝つことは大事です。でも絶対に勝たなきゃいけないとか焦燥感ばかりにとらわれてしまうと、選手も楽しめない。最終的には自分たちで心から楽しんでいるほうがいいプレーしているんですよね。そこに目を向けられたのは、2017年にやっとJ1のタイトルを獲ってからでしたけど。 小林 愛媛FCもJ1に一度昇格したら、そういった景色が変わってくるかもしれない。2015年に一度、J1昇格プレーオフに出場して、ちょっと夢を見たというか。あの感じを子供たちにも味わってほしいなって思うんですよね。今シーズン、順位が落ちてきて現時点では(プレーオフ圏内の6位入りが)難しくはなっていますけど、いずれ昇格して景色が変わる瞬間を見たいですね。 中村 カテゴリーが変わるといろんなものが変わってくるとは思います。先生にはこれからも愛媛FCを追っていただき、引き続きJリーグを熱くサポートしていただきたいです。 小林 もちろんです。 中村 漫画に対してもサッカーに対しても、先生の熱量はやっぱりすごい(笑)。 小林 今日は憲剛さんとどんな対談になるのか楽しみで特に何も準備してこなかったんですけど(笑)、本当に楽しく話をさせていただきました。 中村 この対談を読んでもらっている方に、先生の熱量や人となりが伝わったらうれしいです。知ってもらって『アオアシ』を読むと、一層その魅力を感じることができると思うので。先生、楽しい時間をありがとうございました。『アオアシ』が今後どのような展開になっていくのか、楽しみでなりません。また取材のお電話、いつでもお待ちしております。
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