【上野千鶴子のジェンダーレス】「東大生たちの顔が真っ暗になる瞬間がわかりますか?」|STORY
進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。
こんな世の中だと、子どもたちが可哀想すぎる
Q.受験が終わり、ホッとした方もいると思うのですが、現在のようなジェンダーギャップがある中で狭き門を勝ち残っていかねばならない。だから親の側としても、子どもの受験や教育には力が入ってしまう。そういうことでいいのでしょうか。子どもたちを育てていくうえで、もっと取り組むべきことは何でしょうか? 東さんはどう思いますか? Q.私はあまり子どもの受験に熱心なタイプではありませんが、周りのママたちはやっぱり受験に熱心な方が多いです。頑張って、一流の大学に入って、大企業に入る――そういった“やればできる妄想”が、まだ根強く残っているような気がしています。 競争社会に勝ち残るということばかり目指すのが問題ですよね。 以前、あるメディアのトークで、出産後に仕事復帰してから活躍し、家庭内ジェンダーに目覚めて離婚届を出した女性と対談しました。夫婦関係は解消しないけれど、別姓にしたいという理由からです。 私はそのとき彼女に聞きました。 「経済力に自信がついたから、あなたは夫と交渉を始めたんですか?」 すると彼女は「そうです」って。 彼女は、子どものいる前で、夫と交渉をしたと言います。 それは、お金がある自分の言うことを相手に受け入れさせた、つまり「お金がある人が強い」ということを子どもたちに教えたことになるのです。 お金があるって、そんなに価値のあることですか? 稼ぎの多寡にかかわらず妻の気持ちを尊重する夫との関係を、子どもたちの前で見せた方がずっと教育的でしょう。 お金を稼ぐために大企業の総合職を目指す競争社会。 でも、そうじゃない生き方だって、いっぱいあります。 大人の本来の役割は、「あなたの知らない選択肢がこんなにあるんだよ」ということを示してあげることだと思います。子どもが見ている社会は狭いのだから。 “それがだめならこっちがあるし、こっちがだめでもあっちがある。世界はこんなに広いんだよ”って。 お金だけが価値じゃないんです。 〈お金のある人の意見は通る〉ということを子どもの目の前で実践した先ほどの女性は、結局、3人の子どもをお受験させて名門校に入れました。結局、お金と競争社会の価値観からなかなか抜け出せない人も多いのかもしれませんね。