カミュの小説「ペスト」でうかがい知る新型コロナウイルス感染症が収束するとき
「ペスト」は小説でもとてもリアル!
新型コロナウイルス感染症の拡大とともに注目を集めた小説「ペスト」。フランス出身の作家アルベール・カミュの長編作で、新潮文庫版の発行は1969年にもかかわらず長く読み継がれ、コロナの影響で緊急事態宣言が出た2020年4月には発行部数100万部を突破した。しかし、買ってはみたものの難解で読みにくく、途中で放り出してしまった向きもあるだろう。コロナ感染が再拡大しているこの年末年始に、改めて手にとって読みコロナ収束を想像してみてはどうか。 【画像】読書はいかが? コロナ禍の年末年始の過ごし方――実際の調査結果グラフ 「ペスト」は第二次世界大戦後の1947年に出版され、すぐに高く評価され大ヒットした作品だ。カミュの出身地・フランス領アルジェリアのオラン市を舞台に、感染症・ペストに襲われた人々の闘いを描いた不条理文学だが、当時の人々は感染症というより記憶の新しい戦争という不条理と重ね合わせて読んだという。 とはいえ、ペストはそれまで何度も人類を襲い、14世紀の大流行では世界の人口の4分の1が死亡したとされる恐ろしい感染症だ。感染したら適切な治療を施されなければ、アッという間に死に至る。現在においても根絶されたわけではなく、有効なワクチンはない。小説「ペスト」は有効な治療法もある程度知られたうえで執筆されたので、新型コロナウイルス感染症について未知だった、20年春の私たちの状況とは異なる。それでも「ペスト」で描かれている“感染症に襲われたときの人間の姿”は、コロナ禍の今の私たちの心理状態や行動とよく似ていて興味深い。
感染対策の遅さ、人と会えないつらさは同じ
たとえば、小説の序盤、ペストの流行がまだ認識されていない段階で、ペストで死んだと思われる症例が増えていく。主人公の医師リウーが県知事らにペストだから対策を、と訴えてもなかなか動いてもらえない。コロナで混乱する医療現場と政府の温度差を感じる日本の現状と重なる。 (小説「ペスト」より抜粋) リウーは思い切って知事に電話をかけたーー 「いまの措置では不十分です」 「私の手もとにも数字が来てますがね」と、知事はいった。「実際憂慮すべき数字です」 「憂慮どころじゃありません。もう明瞭ですよ」 リウー医師と知事のこの会話の数日後、オラン市は閉鎖される。リウーはペストの最初の兆候が街に出たときに、かねてから病床に伏せていた妻を遠い療養所に送り出していた。その他の登場人物たちも市外にいる恋人や家族と会えなくなる。いつ終わるとも分からないペストとの闘いに我慢できず、市門からの脱走を試みる者が相継ぐ。会いたい人に会えないつらさ、隔離されてもおとなしくしていられない人々の姿は、コロナ禍の現状とやはり重なる。