緒形直人「とにかく俳優にだけはなるな」父・緒形拳が子どもたちを集めて語った夜
父・緒形拳と同じく、20代でNHK大河ドラマの主演を務めたキャリアを持つ俳優・緒形直人。大ヒットを記録した『優駿 ORACION』での映画デビューに始まり、今年、日曜劇場『アンチヒーロー』で改めて知らしめた存在感、出演を控える連続テレビ小説『おむすび』と、父と同じく俳優としての人生を歩むが、もともとは「裏方志望だった」とか。そんな緒形さんがTHE CHANGEを語る。【第1回/全4回】 ■【画像】緒形直人が「とにかく俳優にだけはなるな」と言われたという偉大な父・緒形拳さん 演じる役柄はもちろん、舞台挨拶などに覗く印象からも、真面目で実直そうな印象が伝わる緒形さん。「めちゃめちゃ頑固者だと思いますよ。自分がこうと決めたら聞く耳を持たない」と自身の性格を語る。 実直なイメージは、日本が世界に誇る名優のひとりである父・緒形拳さんにも重なるが、もともと、父の仕事を見て、俳優業に憧れたわけではないと言う。 1987年に青年座研究所に入所し、翌年、映画『優駿 ORACION』で主演デビューを飾った緒形さん。父と同じ俳優の道を進むことになったが、いま、緒形さんの長男(緒形敦『陸王』など)も俳優として活躍している。 「反対はしませんでしたけど、やらないで欲しいとは思いましたよ。オヤジと同じようにね。人気商売だし、運に左右される仕事でもある。時代とタイミングと自分の運、すべてが合わさっていく世界です。もちろんどの仕事も大変ですけど、俳優もやっぱり大変な職業です。知っているからこそ、できれば違う仕事がいいなと思いました。これは、同じく子どもがいる俳優と話すと、みなさん同じように言います」と、父親としての顔を見せたが、かつては、緒形さん自身が、息子の立場だった。
父親から役者として何かを教わることは一切なかった
「まるっきり表の世界には興味がありませんでした。裏方に興味があったんです。裏方をやりたいと言った時、父がどれだけ喜んだか。逆に、表の世界に入ったときは、どれほど沈んだか」 ――そうなんですか? 「うちは兄と妹の3兄弟で、みんな年子なんですが、小学生のとき、夕食を囲んでいたら、オヤジが“みんな将来どんなことをやりたいんだ”と聞いてきたんです。たしか兄貴(俳優の緒形幹太)はアナウンサー、妹はお嫁さんとか、そんなことを言っていた気がします。それを聞いて、オヤジが“とにかく俳優にだけはなるな”と言ったんです。僕はその頃は、まだ何とはっきり決まっていなかったと思うのですが、俳優には興味がなかったので、“絶対にそうはならない。それは自信がある”と返しました」 頑固者を自負する緒形さんだが、小学生のときの父への返事は覆されることになる。しかし、その後、こうと決めてからはやはりまっすぐだった。 「役者をやっていこうと決めたとき、“10年続けられれば、それは俺は褒めてやるけれども、ここから役者として、俺とお前は他人だぞ” と言われました。それまでは、父と息子の関係でしたが、この世界に入ってから、関係は変わったのかなと思います。役者として、何かを教わることは一切ありませんでした。“俳優という仕事は、自分が自分のスタッフと一緒に築き上げてきたもので、教えられるものではないから、これからはたとえ仕事場ですれ違ったとしても他人だ”と」 10年どころか、デビューして36年を過ぎ、見事に俳優という仕事を築いている。 緒形直人(おがた・なおと) 1967年9月22日生まれ、神奈川県出身。映画『優駿 ORACION』でデビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、多数の賞に輝く。96年には映画『わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語』にて日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。近年の主な出演作に映画『護られなかった者たちへ』『川っぺりムコリエッタ』、ドラマ『六本木クラス』、松本清張ドラマスペシャル第一夜『顔』、2024年4月クールの日曜劇場『アンチヒーロー』での好演が話題を呼んだ。最新作はアイヌ民族と和人との歴史を描いた映画『シサム』、連続テレビ小説『おむすび』への出演も発表されている。 望月ふみ
望月ふみ