児童養護施設で暮らす子どもらのスマホ事情 全体の所持率が上がる中、現場で見えた課題とは
▽スマホが持ててクラスメートらの輪に入れた しかし、年頃の子らがスマホを持つことのメリットは無視できない。北九州市の児童養護施設で生活する高2の男子生徒Bさんは、スマホを所持して学校生活が送りやすくなったと言い切る。「入学当初は持っていなかった。クラスメートみんながLINE(ライン)で連絡を取る中、自分だけ輪に入れなかった」と振り返った。友人同士の話題もインスタグラムやTikTok(ティックトック)などSNSの話題が多く、話についていけなかったという。 野球部にも所属していたが、部の連絡は基本的に顧問の先生も入るLINEグループが使われる。休日には素振りの動画をLINEで提出する課題もあったが、提出方法がなく困った。自分だけ持っていないことで疎外感を感じていたという。 この施設では厚労省の指針が出た後も、「措置費」の予算に余裕がなくスマホ代を捻出しにくいとの理由で、原則自分のアルバイト代でやりくりすることにしている。ただ、Bさんのように部活動でアルバイトする余裕がない生徒もいる。
そこで施設の職員が助けを求めたのは、養護施設などにスマホの貸し出しを行うNPO法人「スマホ里親ドットネット」(千葉市)だった。 国連で採択された「子どもの権利条約」内には、「子どもが意見を表明し、参加できること」がある。 スマホ里親ドットネットでは「今の子どもにとってスマホは生活に欠かせないインフラであり、意見表明や社会参加にはスマホが必要になっているのに、それが失われているのはおかしい」(事務局の藤堂智典さん)と考え、2019年ごろから、児童養護施設やファミリーホームといった「社会的養護」の元で育った子どもらにスマホを貸与し、使用を支援する活動を開始した。同法人が契約したスマホを子どもらに貸し、企業などの寄付金を頼りにスマホの本体代や通信費などの支払いも担う。社会的養護下にいる子どもらであれば、貸与期間は特に決められていない。 Bさんにスマホが貸与されると、効果はてきめんだった。施設職員によると、以前は多かった学校への遅刻や欠席が目に見えて減ってきた。友人から「学校に来なよ」と連絡が来て、励まされる形で学校に出てくることもあった。友人とのつながりを支えに、生徒は現在も順調に通っているという。職員らは高校生活にスマホが必需品になっていると実感した。