漬けものや野菜、果物など地域食材を活用!挑戦し続ける長野・伊那発「イナデイズブルーイング」
木曽の伝統的漬けもの「すんき漬け」がビールの原料に
個性のはっきりしたビールが多い。中でも印象的なのは、乳酸菌を使った酸っぱいビールだ。 酸味のあるビール(サワービール)は近年、クラフトビール界で注目を集めつつある。その独特の酸味と爽やかさは、「サワービールしか飲まない」というコアなファンを持つほどだ。 しかし、国内の大手メーカーから発売されることはほとんどない。乳酸菌はビールに限らず醸造酒にとって 扱いのむずかしい菌だ。大手メーカーほど大きなリスク伴う。その点、小さなブルワリーなら、リスキーであることに変わりはないが、小さいからこそチャレンジできる。 イナデイズブルーイングの定番の酸っぱいビールは「鹿塩GOSE」。GOSE(ゴーゼ)とは乳酸菌と塩を使った小麦のビールで、コリアンダーシードも副原料で使われている。さわやかな酸味に加え、かすかに塩みを感じる珍しいスタイルだ。 「鹿塩GOZE」の原材料名には大麦麦芽、小麦麦芽、コリアンダーシード、塩(大鹿村産)、酵母のほか、「すんき(木曽産)」という見慣れないものが入っている。木曽の伝統的な漬けもの、「すんき漬け」のことだ。ビールに漬けものが入っている? 「大学院の乳酸菌の研究室で“すんき漬け”に出会いました。乳酸菌というとヨーグルトのように動物由来のイメージが強いと思いますが、“すんき漬け”は植物由来の乳酸菌による発酵食品です。グリーンなイメージがあるし、歴史と伝統のある漬物。ぜひこれを使いたいと思っていました」 サワービールの醸造には、選抜された乳酸菌を仕入れて使うブルワリーが多い。しかし冨成さんは、地元でも有名な漬けもの名人から仕入れたすんき漬けをそのまま使う。イナデイズブルーイングならではの乳酸菌の使い方だ。 「しかも、すんき漬けは塩を使わずにつくられる珍しい漬けものです。木曽の歴史を知ると理由がわかります。木曽は中山道の宿場町でしたが、主に人を運ぶ道なので物流は少なかった。物流には塩尻から伊那、飯田を通って岡崎に至る三州街道が使われ、塩もこの道で運ばれました。いわゆる塩の道ですね。 木曽では塩が貴重だったため、塩を使わない漬けものが発達したのです。こんなふうに土地の食材を使うことは、この土地の食文化、歴史を知ることにつながります」 イナデイズブルーイングのフィロソフィーはBrew a better Life。醸し出す商品を通して、「より良い生活とは何なのか」を問いかけ、共有し、伝えていく。 「自分が暮らしている土地の歴史や文化を知ることは、生活を、さらには人生を豊かにしてくれます。そんな思いをビールに詰め込んでいます」 たしかに、すんき漬けという漬物の話を聞いてから「鹿塩GOSE」を飲むと、より味わい深くなるし、その土地への想像が膨らむ。