きみは「顧客を笑顔にする」仕事ができているか CDベイビー創業者が直伝「記憶に残るサービス」
たとえば、顧客の名前がスーザンだった場合、彼女がCDベイビーから受け取るメールには、「CDベイビーはスーザンが大好きです」と表示される。これもまた顧客に大好評だった。 CDベイビーのウェブサイトに新たにアルバムを1枚追加するには、45分程度の時間がかかる。時々、その作業を終えたあとで、「気が変わったので、別のアルバムカバーやオーディオクリップを使ってもう一度やり直してほしい」と頼んでくるミュージシャンがいた。
無償で引き受けてあげたいところではあったのだが、それは難しい。 そこで僕は、双方が笑顔になれるような返答をした。それは、「ピザを1枚おごってくれるなら、何でもします」というものだった。 「CDベイビーに特別な依頼がしたいのなら、地元のピザデリバリー店の電話番号をお知らせします。ピザを買ってくれたら、対処します」というわけだ。 これを電話で伝えると、ミュージシャンは僕たちが本気でそう言っていると信じずに笑っていた。
でも、数週間に一度くらいの割合で、本当にピザを届けてくるミュージシャンもいた。 後でミュージシャンたちから、このピザのやりとりで、CDベイビーのことを最高に好きになったという話をよく聞いた。 ■最初から大企業のように振る舞う必要はない CDベイビーでは、顧客が注文を終えると、確認ページに「このアーティストのことはどこで知りましたか? このアーティストに伝えたいことがあれば、書き込んでください。アーティストにメッセージをお届けします」と表示されるようにしていた。
「昨夜、ラジオであなたの曲を聴き、すごく気に入りました。ネットで検索して、このサイトでCDを見つけました。うちの学園祭にぜひ来てください!」といった熱いメッセージを書き込む顧客も多かった。 ミュージシャンたちはこうしたメッセージを受け取ると最高に喜んでくれた。ここでのやりとりをきっかけにして、顧客とミュージシャンが直に連絡を取り合うことも頻繁にあった。 これはアマゾンのような大規模なオンライン・ストアではまず起こりえないことだ。
いつか大企業になりたいと思っているからといって、最初から退屈な大企業のように振る舞う必要はない。 CDベイビーの10年にわたる歴史のなかで、誰かから大好きだと熱烈に言われたとき、たいていその理由は、こんな小さくて楽しい人間的な触れ合いだったように思う。
デレク・シヴァーズ :CDベイビー創業者、ミュージシャン