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歩きスマホは本当になくなる? 「罰則なし」の法律や条例で行動を規制できるか

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オトナンサー

 神奈川県大和市で7月から、「歩きスマホ防止条例」が施行されました。「歩きスマホ」に特化した条例は全国初とのことです。「スマホは立ち止まって操作するもの」との意識を市民に浸透させ、歩きスマホによる事故を防ぐ狙いですが、歩きスマホをして条例に違反しても罰則はありません。ネット上では「罰則も設けるべきだ」との声が多いですが、他にも「罰則なし」の法律や条例は数多く存在します。  なぜ、罰則なしの法律や条例があるのでしょうか。罰則なしでも法律や条例により、人々の行動を規制する効果はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

罰則には副作用、慎重さが必要

Q.罰則なしの法律や条例は、神奈川県大和市の「歩きスマホ防止条例」以外にどのようなものがありますか。 佐藤さん「例えば、『未成年者飲酒禁止法』や『未成年者喫煙禁止法』は、20歳未満の者の飲酒や喫煙を禁じていますが、違反した20歳未満の者に対する罰則は設けていません。親権者などには、未成年者の飲酒や喫煙を知ったときに制止する必要があり、違反すれば科料(1000円以上1万円未満の軽い刑罰)に処すると定められています。また、酒類やたばこなどを扱う事業者は、未成年者が飲酒したり喫煙したりすることを知って提供すれば、50万円以下の罰金に処するとされています。 今年の6月1日から施行された、いわゆる『パワハラ防止法』(『労働施策の総合的な推進ならびに労働者の雇用の安定および職業生活の充実等に関する法律』)は事業主に対し、パワハラ防止のために雇用管理上、必要な措置を講じることを義務付けていますが、パワハラ防止に関して違反した場合の罰則規定はありません。 不道徳とされる不倫にも、罰則はありません。戦前は刑法に『姦通(かんつう)罪』が定められており、妻が夫以外の男性と性交した場合、夫の告訴によって、妻と相手の男性が処罰(2年以下の懲役)されましたが、1947年に削除され、今は刑事上の制裁はなくなりました。 罰則なしの条例もいろいろありますが、ここ数年で広がりを見せている例として、『自転車保険の加入義務化』が挙げられます。自転車による重大な事故が発生し、高額の損害賠償金の支払いが命じられるケースが後を絶たない中、被害者の保護と加害者の経済的負担軽減のため、自転車保険加入を義務化する自治体が増えています。ただし、今のところ、どの自治体も罰則は定めていないようです」 Q.なぜ、罰則なしの法律や条例があるのでしょうか。罰則なしの法律や条例を定めることで、どのような効果を期待しているのですか。 佐藤さん「罰則なしの法律や条例が存在する理由は、規制の内容などによって異なります。罰則まで設けなくても、社会秩序を大きく害することがない▽禁止する行為が不明確で罰則になじまない▽罰則を科したとしても取り締まりが困難である▽罰則以外の手段によって義務の履行を図る方が目的にかなう――などさまざまな理由が考えられます。 刑罰には副作用があるため、世の中にあるあらゆる不道徳な行為について、罰則を設ければよいわけではありません。罰則を科せば、それに合わせて取り締まりを強化する必要が生じ、社会全体が窮屈になってしまいます。また、国家の権力が強くなりすぎたり、国家による恣意(しい)的な運用がなされたりする危険も増すでしょう。従って、罰則を作るかどうかは慎重に判断されています。 罰則を設けなくても、法律や条例で義務付けたり、禁止したりすることにより、国民や住民の意識を高める効果は期待できます。また、法律や条例にはっきりと規制対象として定められたことにより、被害者が声を上げやすくなるなどの効果もあるでしょう」 Q.罰則なしでも効果があった法律や条例の事例では、どのような効果があったのでしょうか。 佐藤さん「直近では、『新型コロナウイルス感染症を適用対象にするため』として改正された『改正新型インフルエンザ等対策特別措置法』です。同法に基づき、緊急事態宣言が発令され、外出自粛要請や休業要請がなされたのは記憶に新しいところです。 外出自粛や休業の要請に従わない場合の罰則規定はありませんでしたが、多くの国民が痛みを伴いながらも従ったことで、緊急事態宣言が解除されるに至りました。さらに、罰則はおろか義務付ける法律さえなくても、現在の国民のほとんどは日常的にマスクを着用し、手洗いを励行し、新型コロナウイルスの感染予防に努めています。 社会秩序を維持するルールが守られるかどうかは、罰則の有無だけで決まるものではありません。新型コロナウイルス対策のように、国民の意識によってルールが守られることもありますし、場合によっては、社会的非難や民事上の法的責任など罰則以外の制裁が有効に働くこともあるでしょう。20歳未満の者の飲酒や喫煙にしても、本人への『罰則なし』の法律と、友達の目や学校からの処分の可能性などが相まって、一定の効果をもたらしているものと思います」 Q.罰則なしの法律や条例と、罰則ありの法律や条例とでは、効果に違いはあるのでしょうか。あるいは、あまり差はないのでしょうか。 佐藤さん「一般的には、罰則があれば、より多くの国民がルールを守るようになると思います。しかし、いつの時代、どの社会においても、罰せられる殺人や窃盗がなくなっていないように、罰則がもたらす効果は絶対ではありません。また、罰則があっても実質上、取り締まりがなされず、そのことを国民が悟ってしまえば、効果は薄くなってしまいます。罰則の有無によって効果に大きな違いが出るかどうかは、ケース・バイ・ケースではないでしょうか」 Q.法律や条例に罰則がないために、「ちょっとなら大丈夫」とルールを破ってしまう弱い部分がある人は多そうです。法律の専門家として、規制を促す法律や条例に、罰則は必須と思われますか。あるいは、思われませんか。 佐藤さん「必須ではないと思います。先述した通り、罰則は万能ではない上、副作用があるので、罰則を作るかどうかは必要性を含め、さまざまな角度から十分に検討し、慎重に決めるべきだと思います。よりよい社会を作るためには、罰則ばかりに頼るのではなく、国民の道徳心を育み、自発的にルールを尊重できるようにすることも大切でしょう」

オトナンサー編集部

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