2017年「生理学・医学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
血中コレステロールを下げる薬にはいくつかありますが、スタチン類は特にとてもよく効きます。なぜでしょう? コレステロール値が高いとわかると、まずは食事に気をつけるように言われると思います。ですが、食事などで外から取るコレステロールは必要量のほんの2~3割。残りの7~8割は体内で合成しています。こちらの方が倍以上の量があるのです。そこで、遠藤博士は体内での合成に働きかけることを思いつきました。
スタチンはコレステロール合成にかかわる酵素(HMG-CoA還元酵素)の働きを抑えることで、肝臓でのコレステロール生成量を劇的に減らします。すると、肝臓は不足分を補おうと血中からLDLコレステロールを積極的に取り込みます。結果、血中LDLコレステロール値は低下し、動脈硬化を抑えることができるのです。 スタチンの効果は世界中の医学研究者に大きなインパクトを与えました。現在は化学構造を少し変えたさまざまな種類のスタチンを国内外の製薬会社が作っています。そのさまざまなスタチン類の元祖となる「コンパクチン」を青カビから発見したのが遠藤博士なのです。
将来、コレステロール低下薬が必要になることを見抜き、コンパクチンを発見した遠藤博士。現在では、世界中で3000万人以上の人々がスタチンを飲んでいます。ノーベル賞受賞にふさわしい研究だと思いませんか? ◎予想=科学コミュニケーター・浜口友加里/深津美佐紀/八田愛理奈
神経科学を変えた「オプトジェネティクス」
《ピーター・ヘーゲマン(Peter Hegemann)博士、カール・ダイセロス(Karl Deisseroth)博士、エドワード・ボイデン(Edward Boyden)博士》 「オプトジェネティクス」……かっこいいけど耳なじみのない言葉ですね。 オプトジェネティクス(optogenetics)はオプト(光)とジェネティクス(遺伝学)を合わせた造語です。遺伝子操作によって光に反応するタンパク質を神経細胞に作らせることで、「神経細胞の活動を光のオンオフで自由に操作する技術」です。 なぜこの技術がすごいのでしょうか?自然科学では「観察」と「操作」がとても重要です。脳の観察技術はこれまでかなり発展してきましたが、観察だけでは脳の働きを突きとめることはできません。例えばマウスの「神経細胞Aが活動する」と「もりもりごはんを食べる」が一緒に起きることが観察できたとします。でも、それだけでは「神経細胞Aが活動したからもりもりごはんを食べるようになった」(因果関係)とはいえないのです。他の原因によって神経細胞Aも活動したし、もりもりごはんも食べたのかもしれませんし(相関関係)、偶然に同じタイミングで2つの現象が起こっただけの可能性も否定できません。 そこで必要なのが「操作」です。神経細胞Aを活動させたり止めたりしたときのマウスの行動を見れば、神経細胞Aの活動がもりもりごはんを食べることの本当の原因なのかが分かるのです。